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夫の脳にがんが見つかった日、悲しみから救ってくれた「人生で一番美味しいうどん」

 亡くなった大切な人と食べた、思い出のメニュー「弔(とむら)いメシ」。誰しもいくつかそんな料理がいくつかあるのではないでしょうか。  筆者も3年前にがんで亡くした夫とは、たくさんの思い出があります。その中でも、最も印象に残っている「弔いメシ」は、がんの末期へと進み始めた頃に食べた、明太釜玉うどん。  それは、私たち夫婦を不安と絶望の境地から救ってくれた一品だったのです。

半年ごとの脳の検査で転移が発覚

半年ごとの脳の検査で転移が発覚

写真はイメージです。

 2019年の秋、夫の脳の定期検査と診察に、私たち夫婦は病院を訪れました。2017年に肺がんにより脳梗塞を発症し、それから半年ごとに定期検査をしていました。 【参考記事】⇒脳梗塞で倒れた夫にがんまで発覚。病室で“夫の切ない一言”に号泣  実はその時期、夫は何種類目かの抗がん剤治療中でしたが、血液検査での数値が徐々に高くなり、悪化の兆候が見え始めてきた頃でした。とはいえ、夫は「自覚症状もないし、まだ大丈夫」と楽観的に捉えていました。  検査を終え、診察までの長い時間をぼんやりと待っていると、夫が急に「帰りはうどんが食べたい」と言い出しました。その時、以前取材で行った讃岐うどんのお店が近くにあることをふと思い出し、夫に提案。ずっと、あのお店の美味しいうどんを夫に食べさせてあげたいなと思っていたのです。  そのうどん屋さんが、いかにこだわっていて美味しいかを夫に説いているうちに、診察の順番が回ってきました。いつも「脳は変わりないですね」と言われて帰るので、今回もそんなもんだろうと軽い気持ちで病室に入ると、医師が少し気難しい顔をしているよう……。瞬間、不吉な予感が頭をよぎりました。そして、医師にこう告げられたのです。 「脳にいくつか腫瘍が見られます。もしかすると、肺がんによる脳転移の可能性があります」  脳転移。今まで読んできたたくさんの闘病ブログで、更新が途絶える少し前によく見たな、と思い出し、背筋が冷たくなるのを感じました。この日初めて、いよいよそこまで迫ってきている、という現実を知らされたのでした。

失意の中で訪れたうどん店

失意の中で訪れたうどん店 診察が終わり、私はショックで呆然としていました。さっきまでウキウキしながらうどんの話をしていたのが、遠い昔のよう。「これからどうなるのか」と不安が募ります。  夫も気落ちしており、困った犬のような、悲しげな顔をしていました。しかし、病院を出ると「うどん屋に行きたい」と一言。私も、もしかしたらもう元気に食べに行けるタイミングは残り少ないかもしれない、と考え、タクシーに乗って、新中野にあるうどん店「讃岐のおうどん 花は咲く」に向かいました。  この日は昼から雨がしとしとと降り、どんよりした曇り空が私たちの気持ちをより重くさせます。しかも、タクシーが道を間違えるというアクシデントが発生。お店に着いた時はすっかりぬれねずみでした。 「今日は厄日かな……」とぐったりしながらメニューを開き、私は「かしわ天ぶっかけ」、夫は「KTMB釜玉明太バター」といううどんを注文。九州出身で釜玉が好きな夫らしいチョイスです。
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悲しそうだった表情がパッと明るく
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