注文してからも、不安に押しつぶされそうで、正直食事が喉を通るのだろうかと思うほど、食欲は減退。夫の体調を気遣いつつ、重い時間が続く中、うどんが運ばれてきました。

新中野にあるうどん店「讃岐のおうどん 花は咲く」の「KTMB釜玉明太バター」
右手がうまく使いにくい夫の代わりに私がうどんを混ぜ、「はい、どうぞ」と夫に箸を渡すと、夫はうどんを一口すすりました。すると、
悲しそうだった表情がパッと明るくなり「美味しい!」と一言つぶやいたのです。
おや?と様子を見ると、驚くほどハイペースにうどんを食べています。ホクホクしながら美味しそうに食べている夫の様子は、まさに「生きる姿」そのもの。先に起こることばかり考えておびえていた私でしたが、「
あぁ、夫はまだこんなに元気に生きているじゃないか」と気づいたのです。
今、必死で生きている夫にできることを一つ一つ探して、それを一緒に積み重ねていけばいい。その先に、結果があるんだと思えて、自分の思考がリセットされました。
なんだか私もうどん本来の味が感じられるようになりました。あまりに美味しそうに頬張る夫を見ていたら、私も夫のうどんを食べてみたい気がして「ね、少しちょうだい」と一口もらうことに。

大ぶりな明太子と、色の濃い卵黄が混ざったふわふわのうどんをすすると、ふわっとバターの香りが広がります。ほろっと崩れた腹子の明太子のプチプチ感と旨み、さらに卵のコクが合わさり、たしかにこれはベストマッチ! 「ほんとだ、これうまい!」
さらに、店員さんがおすすめしてくれた、甘みのある香川県のしょう油をひと差しすると、またコク深い味わいに。しょう油が全体の味をグッと引き締めて、すべての食材をよりまとまりよく仕上げてくれます。
その後、夫はペロリと1杯を平らげ「
今まで食べたうどんで一番美味しかった!」と満足気。その感心するような夫の顔を見て、私は「連れてきてよかった」と心から思いました。やはり、食は生きる源。鬱々(うつうつ)とした気持ちが、少しずつ晴れていくのでした。