
2話より
桜並木のベンチにもう一度誘ったのは、新名のほうだった。ノー残業デーの日、夕方頃に退勤した新名が、コンビニでビールを二缶買う。レジに駆け込むように置いた一本を倒してしまう。新名のはやる気持ちと不倫(未遂)のワクワク感を複雑な爽やかさと哀愁で演じる岩田の表現力が研ぎ澄まされる。
でもなぜか、新名の足はベンチを前にとまり、引き返す。帰宅すると、楓が先に寝ている。冷蔵庫を確認すると、タッパーの中の酢豚は減っていない。ショック。新名がまた瞳を潤ませる。冷蔵庫を切なくのぞく岩田の“潤み典”的な目の演技がたまらない(ああ、岩ちゃん!)。
この冷蔵庫の場面で流れる菅野祐悟による音楽が効果的だ。菅野が音楽を担当した『シャーロック』(フジテレビ系、2019年)で、ディーン・フジオカ扮する誉獅子雄のバディ・若宮潤一を演じたときのあの切ない目を思い出す。
若宮の気持ちも知らずに危ない橋を渡り続ける獅子雄に対して、岩田が“魂の潤み典”を込めた数々の表情が素晴らしかった。若宮の目はもちろん不倫のそれではないが、相手を強く求める気持ちは新名とどこか似ている。

3話より
新名は、結構な頻度で冷蔵庫を開ける。開いては閉める。冷蔵庫の内側にカメラが置かれ、その間だけ冷蔵庫の四角い枠にフレーミングされる岩田の表情が可愛いのなんの。毎晩、減らない作り置きを確認する“冷蔵庫の妖精さん”と命名したらどうか。タッパーの中身の冷めた惣菜より、ほんとうは楓のことをじっと見つめていたいのに。だからやっぱり瞳は潤む。
楓が先に寝ているベッドに新名が座る場面も切ない。彼は、彼女のことを愛している。深く愛しているのに、ふたりの時間はすれ違う。できることなら、楓との愛の時間を生きることで満たされたい。妻の健康を気遣う献身的な夫を演じることでこれまではなんとかやり過ごしてきた。
ある晩、楓がイライラして帰ってくる。新名は彼女の好きなカモミールティーをいれようとするのだが、彼の献身的な態度が逆に楓の癇に障ってしまう。役柄なんだけれど、いじめられた犬みたいな顔をする岩ちゃんが何だか不憫になってきた(楓さん、冷蔵庫の妖精さんをあんまりいじめないで)。
新名の潤んだ瞳は、相手を渇望するあまり、搾りだされる水分だ。第1話のラスト、社内の花見で、みちと抜け出した新名が、人目を盗んで、彼女をしっかり抱きしめた。自分も「セックスレス」だと告白した新名は、心のなかでこう呟いていた。
「彼女のその涙は、俺の中にずっと溜まっていた涙のように思えた」
カラッカラの心の中とは裏腹に、「俺の中でずっと溜まっていた涙」で瞳を潤ませ、相手を求める目をするときの岩ちゃんはほんとうにうまい。