
8話より
繰り返しになるが、新名の手料理ポイントは、その調理過程が描かれることにある。料理中の新名は、楓が食べてくれることを想像して、優しく微笑みを浮かべる。この過程が、新名の人間性を何よりもにじませるのだ。
みちとの関係を諦め、夫婦仲を再構築しようとした新名だが、いきなり楓のために手料理作りを再開することはない。きっかけは、新名の母・新名幸恵(大塚寧々)の自宅訪問。
母親のためなら、新名も喜んで調理過程の時間をさくだろう。すこしは料理に慣れた楓を中心に、新名は冷蔵庫から、たくさんの野菜を抱えて、せっせと運ぶ。
新名がシンクで大根とトマトを洗う手元へカメラがゆっくりズームアップする。それは、まさに調理過程そのものを捉え、新名クッキングの時間を引き伸ばすための試みのように見える。なので、一応、新名クッキングが、復活したことにはなりそうだ。
そして、ここで再び「日下部樹」の名前を思い出すなら、樹が、河野さやか(高畑充希)に美味しい野草料理を振る舞う役柄だったことが鮮やかに浮かぶ。初主演作にはじまり、岩ちゃんは、意外と料理をする役が多い。
『シャーロック』(フジテレビ系、2019年)で、ディーン・フジオカ扮する誉獅子雄にパスタを作ったり(でも、獅子雄は楓みたいに食べてはくれない)、不思議な青年を演じた『Vision』(2018年)でも永瀬正敏とカレーを作る姿をドキュメンタリーのように捉えた料理場面があった。
これまでに確認できる限り、おそらく合計4回。新名役は、特に、料理と岩田剛典の関係性を考える上での理解が深まる。なので早いところ、新名クッキングが完全復活しないものだろうか。
<文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:
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