UTAとの共作ナンバーからもう一曲「Apple」を。『パンドラの果実〜科学犯罪捜査ファイル〜Season1』(日本テレビ系、2022年)の主題歌であるこの曲では、出だしからディーンのラップが印象的で、彼らしさ全開の遊び心を感じずにはいられない。
というのも、ディーン・フジオカを語る上で実は絶対に欠かせないのが、ラップだからだ。
高校卒業後のディーンは、夢の地アメリカへ留学する。シアトルのクラブイベントではよくラップを披露していたという。「Apple」での洒落たラップは、ストリートな感覚があったからこそできる脱力したパフォーマンスだろう。
その後2004年、香港に渡ったときにもクラブで飛び入りでラップをやっていたらスカウトされる。モデルデビューのきっかけをつかみ、翌年には香港映画で俳優デビュー。そう、ディーンの原点は、俳優でも歌手でもなく、まずラッパーとして語られるべきなのだ。
日本での一般的な認知としては、大胆不敵なダイナミックさを持ち味とする俳優のイメージが強いかもしれない。
NHK朝の連続テレビ小説『あさが来た』(2015〜2016年)で五代友厚役に大抜擢され、お茶の間での人気が急上昇した。
海外での修行を経て、日本に逆輸入された2015年前後から、俳優ディーン・フジオカのイメージは揺るぎないものとなっていく。1980年生まれの彼は現在、42歳。話題が尽きる気配は全然ない。
さまざな経験の中での試行錯誤があったから、今の彼がある。ストレートでたくましい演技には、努力家の足跡がにじむ。修行時代の彼がもし今の自分の姿を見たら、どう思うだろうか。筆者はこの曲のことを思った。