子どもを性犯罪から守る「日本版DBS」に「働きたい人の権利は?」の声も…。加害者治療にあたる専門家の意見は #こどもをまもる
今秋に実施予定の臨時国会で、「日本版DBS」創設のための関連法案が提出されると発表されています。
日本版DBSとは、子どもと接する職場で働く人に性犯罪歴がないことの証明を求める制度。
同法案では性犯罪から子どもを守るためどのような施策が行われるのか、また導入をめぐる議論からどのような問題が読み取れるのか――。長年、加害者臨床を専門とし、『「小児性愛」という病 ―それは愛ではない』(ブックマン社)などの著書がある精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳氏に聞きました。
イギリスで約10年前から実施されている犯罪証明管理システムを参考とする、日本版DBS。その導入の検討が本格化するきっかけの一つとなったのは、2020年に発生したベビーシッターマッチングアプリ「キッズライン」の登録シッターによる強制わいせつ事件です。
保育中の子どもに対するわいせつ容疑で逮捕されたシッターは、前職でも同様の事件を起こしていたことが明らかになったことで、大きな波紋を呼びました。
こども家庭庁が公開している資料によると『小児性わいせつ型の性犯罪に及んだ者の中に、複数回の刑事処分を受けているにもかかわらず、同じく小児性わいせつ型の性犯罪を繰り返す者が一定数存在することが認められる』状況があるといいます。
そんななか、性犯罪歴のある人が学校や保育などの現場で就労できないようにする日本版DBSは、性犯罪の再犯防止を目的とする施策として検討されています。
一方、同制度を取り巻き、さまざまな議論が起こっています。その争点のひとつとなるのが、対象となる職種についてです。
現状では、保育所や幼稚園・学校・児童養護施設など行政の許認可が必要な施設は義務化の方針が定まっているなかで、学習塾やスポーツクラブなどの民間事業者については“任意”もしくは“義務”とするか、いまだ意見が取り交わされています。
この点について、200名を超える小児性犯罪の加害者臨床に携わってきた斉藤氏は、実例を挙げながら「可能な限り多様なケースを想定した細やかな制度設計をすべき」と指摘します。
「最近でも、大手中学受験塾の『四谷大塚』の講師が教え子を盗撮したなどとして逮捕される事件がありましたが、民間事業者が運営する施設内で子どもが性犯罪に巻き込まれるケースは非常に多いです。加害者臨床に携わってきた立場からすれば、制限の対象を一部に限定せず、幅広い職種で有効にすることが、再犯防止のために望ましいと言えます。
また、子どもを狙った性犯罪が発生するシチュエーションは、一般的に想定されている範囲に限らず、非常に多様です。例えば以前あるスポーツクラブで、ボランティアのスタッフの一人が練習後に児童たちをプールに引率して、そこで加害行為に及んだという事例がありました。
このように大人が子どもと関わる環境、および性被害が発生する環境というのは、そこに報酬が発生するか否かを問わず存在します。そのため、雇用主・被雇用者といった構造に限定しない取り組みも考慮すべきだと思います」(以下、斉藤氏)
日本版DBSの検討は「キッズライン事件」がきっかけ

斉藤章佳氏