
道長は身分ある人だ。それを捨て、家族も捨てて、ふたりだけで遠い国へ行こうと言う。
幼いころから想いを寄せていた相手に、熱烈な愛をぶつけられて嬉しくないはずがない。しかし、まひろは首を横に振る。道長には都でなすべきことがある。道長が偉くならなければ直秀のような無残な死に方をする人はいなくならない、と。
それでも道長は食い下がる。まひろは頷かない。出世をし、良き政をするのが道長の使命である、とこちらも引かない。
一方でまひろは、道長が全てを捨てて、畑を耕したり、生活をするために泥だらけになっている姿を想像できない、とも言う。道長は身分ある人だから当然とも言えるが、まひろはふたりの未来が想像できないのなら、共に行くことはできないだろう。だが、まひろの立場になって考えてみると、そんな想像があの場でできるのってとんでもないことなんじゃないだろうか。愛をぶつけられ、抱きすくめられ、口づけをされ……自分が恋焦がれている相手に「一緒に遠くへ行こう」と言われたら何も考えられずに「はい」と言ってしまいそうなのだが……と考えてしまう筆者が浅はかなだけかもしれないが。
でも、「この人は後先考えずにそんなこと言って!」と冷める可能性だってあり得る。まひろは共に行くことを拒みつつも、道長と肌を重ねる。冷静なようであって、まひろだって愛に浮かされていたはずだ。人の心の複雑さよ。
ふたりが体を重ねるシーンはなんとも美しい。月夜に照らされるまひろの表情にはあどけなさと艶やかさが入り混じる。彼女は愛する人の腕の中で何を想ったのか。

しかし、甘い時間を過ごしたあとに静かに「振ったのはお前だぞ」と言う道長が怖い。

道長がまひろに「都を出よう」と言ったのは、当然家族のこともあったからだろう。父は一世一代の大勝負に出た。
その上で、失敗したときの予防線も張っていた。道長だけは何も知らなかったことにして、藤原家を守れ、と言う。しくじった際は、父の謀を関白に知らせよ。そうすれば道長だけは生き残れる。ここに父が賭ける期待の大きさが現れている。
「道隆の役目では?」と道長は言うが、謀が成功すれば、手柄は道隆のもの。成功しても失敗しても藤原家は残す。そういう強い意志が見てとれる。
が、そうなると、道兼である。
一番、危険な任務であるにも関わらず、どう転んでも手柄は手に入れられない。そういうさだめであり、道兼も納得しているのかもしれないが……。
手柄は手に入れられずとも、前回からの道兼はイキイキしているようにも見える。花山天皇を謀り、出家させたところで裏切りを明らかにする。その瞬間、とてもいい悪役の顔をしていたが、今後についてどのように考えているのだろう、道兼。