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朝ドラ『虎に翼』戦災孤児を演じる18歳俳優の“危うげな魅力”に注目集まる。過去作からわかる早熟な才能とは

戦災孤児を引き取った巨匠監督

『虎に翼』© NHK そのため、ナレーションによる説明は、他の回より詳細なものとなるが、困窮する戦災孤児の現実を描写するのは、やはり難しい印象がある。そこでひとつの補助線として、1948年に公開された戦災孤児映画の傑作『蜂の巣の子供たち』を紹介しておきたい。  同作冒頭、島村俊作扮する復員兵の元に戦災孤児たちがやって来る。兵士はポケットから取り出したパンを一人ひとりに与える。でもまたすぐに子どもたちは戻ってくる。聞けば、食べかけではないパンだとすべて「兄貴」に渡さなければいけないと言うのだ。  子どもたちが「兄貴」と呼ぶ男は、『虎に翼』の道男のような人物かと思ったら、負傷した元兵士だった。それで復員兵は、りんごをふたつにわけて子どもたちに再び与える。その場でりんごをかじる子どもたちは、実は、子役ではなく、戦災孤児が本人役で出演しているのだから驚く。  監督の清水宏は、日本映画界の巨匠だが、戦後は孤児たちを引き取った人。彼らとともに「蜂の巣映画部」という独立プロダクションを設立し、戦後第1作が、『蜂の巣の子供たち』だった。作品尺は84分。『虎に翼』の1週分とほとんど同じ。比べられるものではないけれど、同じ戦災孤児を扱う映像作品でも現実味がまるで異なる。

揺らぎを開示していく和田庵の演技

 でもそんな尺と描写の不足を補って余りある存在がいる。文頭で紹介した、孤児たちの元締め的な役回りを担う少年リーダー・道男を演じる和田庵だ。多くの魅力的な男性俳優が出演してきた本作だが、彼らと入れ替わるように登場した和田は、これまでの俳優陣とはひと味違う。  現在18歳。実年齢より少し年少の役柄だが、時代を問わず10代の少年が抱える感情を画面上で見事な揺らぎとして具現化している。道男は、結局猪爪家で引き取られる。一時的な委託保護とは言え、猪爪家の男性にはない不良的な雰囲気の道男は、なかなか受け入れられない。  そこで猪爪はる(石田ゆり子)が「泊めてあげなさい」と言って、率先して愛情を注ぐうちに、道男の心も徐々に開いていく。第58回では、盗みを働こうとした道男にはるがうまく対処し、その晩の夕食では、すっかり祖母と孫のような関係がにじむ。  が、寅子と猪爪直明(三山凌輝)が留守の間、猪爪花江(森田望智)に心惹かれた道男が、危うく一線を越えてしまいそうになる。年頃である。これは大きな懸念でもあったが、ちょっと展開としては急だなとも思った。ただやはり戦災孤児の少年の揺らぎを一つひとつ開示していく和田の演技には、急な場面展開をもカバーする力があるように思う。
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過去作で共通して演じてきた役柄
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