入ってみると思っていたよりずっと部屋が片付いていたので「じゃあ掃除機だけでもかけておくか」と周りを見回してみた綾音さん。
「掃除機が見当たらないので、クローゼットの扉を開けてみたら…なんと、そこにはアダルトDVDがズラッと並んでいて。あまりのことに腰が抜けたみたいになってその場に座り込んでしまったんですよ」
恐る恐るDVDを物色してみると、痴女モノや男性がいじめられる系が大半を占めていて、綾音さんはすっかり引いてしまったそう。

「出てきたのが2~3枚ならまだ許せますが、軽く100枚以上はありそうだし、ネットでエロ動画なんていくらでも見れるだろうに、わざわざDVDをこんなに買い集めてるってよっぽどその特定ジャンルが好きってこと?と、急にYが遠い世界の人に思えて」
彼は、今まで綾音さんに痴女的な振る舞いをして欲しいと頼んできたことはありませんでした。ですが、綾音さんはどうしてもこのままお付き合いを続ける気になれなくなってしまったそう。
「Yの帰りを待って『勝手に部屋に入って、クローゼット開けて、悪いのは私なんだけど』と前置きしてから自分の気持ちを話すと、あきれたように『確かに俺はいっぱい買いすぎだと思うけど、男だったら誰でも持っているし、誰にも迷惑かけていないと思うんだけど』と言われてしまいました」
気まずい空気の中、とりあえずお互いの合鍵を返しあい、しばらく時間を置いてから話し合うことになり、綾音さんはNさんと一緒に食べるはずだったオムライスの材料を持って帰宅しました。
「きっと私の心が狭いんだと思います。同じ状況で笑って許せる女性もいっぱいいるのでしょうが…どうしても拒否反応が出て耐えられなくて」
「あれから4ヶ月位経ちますが、まだ話し合いはしていません。職場では今まで通り接していますが、多分このまま自然消滅する気がしますね」とため息をつく綾音さんなのでした。
<文&イラスト/鈴木詩子>
鈴木詩子
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:
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