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「チケットの売れ行きがやばくて」三浦大知に続き国民的グループも告白。“アーティストの価値”急落の根本原因とは

“刺さる”スピードが早いとヒットするが…

 そこで今回のいきものがかり。彼らの曲には聞き手との共感が土台にあります。歌詞の面でもメロディ、サウンドの面でも、リスナーオリエンテッド、ユーザーフレンドリーな製品です。つまり、聞き手の価値観に合わせて、アーティストは作風を固めていくわけですね。  いまよく使われる“歌詞が刺さる”などの言い回しは、すべて素人である聞き手の価値観におもねった売り文句です。そして、そのように共感、“刺さる”スピードが早いほどに、その曲やアーティストはヒットする。  けれども、そのようにしてすぐに理解され、共感されることは、食品にたとえるなら足が早いということにはならないでしょうか。
いきものがかり「YELL/じょいふる」ERJ

いきものがかり「YELL/じょいふる」ERJ

 たとえば、<サヨナラは悲しい言葉じゃない それぞれの夢へと僕らを繋ぐ YELL>(「YELL」 詞・水野良樹) という歌詞は、実にわかりやすい。意味も状況も心境も、その場で一義的に把握できます。  メロディもこの詞にふさわしく、マイナーコードを上手に活用して若い感傷を刺激する。  しかしながら、すべての感覚が統一されたクリアな味わいからは、本来音楽が持っている重層的な含みが失われています。だから、曲を聞いたその瞬間以外の味わいがなく、ヒット曲はすべて瞬間最大風速的に消費され、その祭りが過ぎたあとには何も残っていないという状況が生まれるのですね。

市場とヒットチャートの高速サイクルにひそむ貧しさ

 すぐに共感、理解されるものは、何年も寝かせておけません。けれども、市場とヒットチャートの高速なサイクルが、音楽を良い意味で飼い殺しにしておける社会的な豊かさを許してくれない。  いきものがかりの一連のヒット曲も、売り上げの数字と反比例するように、この潜在的な貧しさを示していると言えないでしょうか?  だから、水野良樹の告白には慢性的な疲労が滲(にじ)んでいたのだと思います。   <文/石黒隆之>    
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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