――フォントをつくるために170文字も書いてもらったとのことですが、「あいうえお」だけじゃなく「だ」「ぱ」など濁音や句読点を揃えるのはかなり大変だったと思います。どうやって書いてもらったのでしょう?
nyabeeeee:「Calligraphr」というサイトを使うと、PDFで用紙が出力されるんですね。なので、「ここに『ご』って書いてあったら『ご』って書くんだよ」という感じで書いてもらいました。

「練習だから書いてみてよ」と言われて書いてくれた「ご」
「これ、ちょっと練習だから書いてみてよ」という感じで用紙を置いておいたら、勝手に書いてくれる……という方法で埋めていきました。ただ、勝手に書いてもらうものですし、本人からするとなんの義務感もないので、気まぐれに書いてはやめて……みたいな(笑)。
――好きな文字から埋めていき、飽きたら中断するわけですね(笑)。
nyabeeeee:そうなんです。用紙5枚分くらいを埋めないといけなくて、結構な量があるんですね。なので、1枚書いては放ったり(笑)。「カタカナはまだ苦手だから」と後回しにし、まずは本人が好きなひらがなから埋めていって……と、まる3日ぐらいかけて全部埋まりました(笑)。
――計5枚書くって、大人の私がやれと言われても面倒ですからね(笑)。
nyabeeeee:たぶん、子どもからすると「これ、なんの意味でやるんだろう?」みたいな(笑)。
――今、まさに文字を書くのが好きな時期だから埋まっていったのかもしれませんね。
nyabeeeee:おっしゃる通りだと思います。それでも、特に苦手なカタカナは時間がかかりました(笑)。しかも、カタカナの「ヲ」なんてあまり使わないじゃないですか?
――確かに使わない!

書いたことがないであろう「ヲ」を、苦戦しながら書いてくれた
nyabeeeee:普段書いている「プラレール」の「プ」なんかは書けるんですけど、文字によってはやっぱりムラがあります。慣れている文字、慣れていない文字。「ネ」とか「ヌ」は手こずっていましたね。
あと、フォントをつくるときは小さい「っ」とか「ょ」も含まれるので、そういう字は苦戦していました。バランスとか位置もめちゃくちゃになって(笑)。

小さい「っ」と大きい「つ」の大きさが変わらない
――でも、そんな拙さも愛しいですよね。
nyabeeeee:そう、ムラがあるのが愛おしいなっていう感じです。
――「こどもフォント」を作成する際に気をつけたこと、意識したことはありますか?
nyabeeeee:文字の大きさが一つ一つ違ったり、ムラがあるのはあえて活かしました。ただ、ムラを最大限に残してしまうとフォントの体が整わなくなるので、そこはらしさを活かしつつ、ちゃんとフォントになるようにバランスはとりました。
――ムラを活かすのとフォントとして通用させることのバランスというか。
nyabeeeee:そうですね。自分はフォントづくりの専門家ではないので「ここに正しく配置する」とかはわからないのですが、そこはなんとなく雰囲気でつくりました。
たとえば、カタカナの「キ」に比べて「コ」がすごくでかいんです。得意な字と苦手な字で、大きさがおかしくなってくるんですね(笑)。

「キ」に比べて異常にでかい「コ」、「W」に見える「ん」が秀逸
――ハハハハ! いいですね(笑)。
nyabeeeee:でも、字によって違ってくるサイズはあえて活かしながらつくりました。
――170文字書いてもらったとのことですが、「こどもフォント」のなかで特にお気に入りの文字はありますか?
nyabeeeee:えーっ、お気に入りの字ですか(笑)?……「ん」ですかね。
――「ん」が「W」に見えますね(笑)。
nyabeeeee:そう、「W」に見えて「ん」にはあまり見えないけど、この歳にしか書けない「ん」だなっていう。こういうアンバランスさが愛しいなあと思います。
小学校に上がったら、お手本を正しくなぞって字をきれいに書くように習うじゃないですか? でも、今はただ好きで書いている。家でなにかをなぞらせたりは全然させていないんです。本当は良くないのですが、書き順もめちゃくちゃだし、見よう見まねで書いています。4歳が本気を出し、見よう見まねで書いたらこうなったという(笑)。4歳の今しか出せない本気というか。
――正しい書き方を学ぶ前の、感性を十分に活かして書いた「ん」というか(笑)。
nyabeeeee:そう! 大人になると「正しく書こう」「きれいに書こう」と修正されていくじゃないですか? だけど、今は楽しいから見よう見まねで書いているし、バランスがいびつな字になっている。そんな表現が「今しかない!」と、愛おしくなるんです。