
両親学級の資料
私の体調不良は別の日にも起こった。行政主催の両親学級に夫婦で参加することにした。夫に両親学級に参加してほしいと初めて伝えた日、「それだけは勘弁してほしい」と言われた。何が嫌なのかはわからなかったが、とにかく参加したくないらしい。
しかし、後日この連載の担当編集者さんに「ぜひ両親学級に参加した体験を書いてみてください」と言われたので夫に「仕事で体験談を書かないといけない」と言ったところ、私の仕事に関することなら反対しないので、あっさりOKしてくれた。
土曜の昼下がり、炎天下のなか夫と二人で会場に向かった。到着すると多くの夫婦が参加しており満席だ。両親学級の流れは前半に助産師さんの話、後半は沐浴の仕方やおむつの変え方、赤ちゃんの抱き方、夫の妊婦体験、そして交流タイムだった。
母親学級でママ友を作れなかったので、両親学級ではママ友を作りたいと思っていた。そして何より、夫に妊婦の大変さを知ってもらいたかった。
しかし、助産師さんの話を聞いている最中、目の前がチカチカして冷や汗が吹き出し、気分が悪くなってきた。パイプ椅子に座っていることもつらくなって限界になり、側にいた助産師さんに「頭がクラクラします」と声をかけると、すぐに部屋の一部をカーテンで仕切って長椅子に横にならせてくれた。
血圧を測られるも正常。助産師さんには妊娠糖尿病であることを伝えた。妊娠糖尿病のため厳しい食事管理をしていて、白米や小麦製品などの炭水化物や砂糖の入っている食品をもう3週間くらい摂っていなかった。妊娠糖尿病の治療は低血糖と隣合わせのため、おそらく低血糖で倒れたのだと思われた。すぐに夫も呼ばれた。
夫は「無理しないでタクシー呼んで帰ったほうがいいと思う」と言った。しかし、今日の一番の目的だった体験コーナーがまだだ。本当はあなたに妊婦体験してもらいたかったのに……帰りたくない。助産師さんたちも無理はしないほうがいいと言う。助産師さんに「オムツの変え方がわからないので、少し休んでから参加したいです」と伝えると、カーテンの仕切りの中に赤ちゃん人形を持ってきて、その場でオムツの変え方を簡単に教えてくれた。
夫もその様子を見ており「僕、再婚で前の結婚のときにオムツ変えていたので今見たら、思い出しました」と助産師さんに言った。私も目の前で見ただけで実際に自分で変えてはいないのですぐに忘れそうだが、なんとなくポイントはわかった。
夫がタクシーアプリでタクシーを呼んでくれてすぐにタクシーが来た。私は夫に支えられてタクシーに乗り込む。近所なのですぐに自宅に着いた。水分を摂ってベッドに横になる。夫は「もう今日は夜までずっと休んどきな」と言い、二人でお昼寝をした。私はまったく眠気はこなかったが、夫は寝たり起きたりを繰り返し、目が覚めるたびに「大丈夫?」と心配してくれた。
妊婦のつらさをわかってほしい一心で夫に両親学級へ参加してもらったのに途中退室となってしまった。でも、すぐにタクシーを呼んでくれ、ここまで心配してくれている。本当は妊婦の大変さを分かっていて、今まで口に出さなかっただけかもしれない。