ただ、実親を探す過程は、想像以上に労力がかかった。気づけば、まるさんは20歳を過ぎ、実親探しにのめり込んでいく。
まずはじめに、まるさんは自身の戸籍を確認するため、管轄の役所で申請を行った。そこから特別養子縁組を組む以前の従前戸籍(つまり実親と家族関係を結んでいた頃の戸籍)を辿り、肉親の情報を得た。
戸籍を辿って判明したのは、ざっと下記の情報だった。
・実父の記載がないため、実父には認知すらされていない。
・実母は未婚の状態で、19歳でまるさんを出産。
・実母は、まるさんを特別養子縁組に託した直後、別の男性と結婚した。
・その男性との間に、3人の子どもがいる。
これらの事実を目の当たりにし、まるさんは「頭も心もついていかなかった」と振り返る。
「実母が私を育てるのを諦めた後、別の男性と結婚していると知ったときは、私の存在を蔑ろにされた気持ちでした。『時間が経てばまた人生をやり直せると思ったのか』『それなら私をなぜ生んだのか』と、やるせない怒りが沸いてきました。
そのうえ実父の記載がないことも衝撃でした。実母がシングルマザーで、子育てが大変だった事情もあるのかもしれませんが、やはり自分は望まれずに生まれてきたと思わざるを得ませんでした」

さらに、実母が嫁いだ先の戸籍を取り寄せることに成功した。本来、血縁関係のない第三者が戸籍を開示することはできないものの、市役所の担当者の誤対応により結果的に戸籍を入手できたという。
その戸籍を確認したまるさんは、驚きを隠せなかった。実母はその夫とも離婚しており、3人の子どもの親権を放棄していたことがわかった。つまり、実母はまるさんを手放した後、3人の子どもを育てることも諦めたわけだ。
自身のルーツを辿るにつれ、無慈悲な現実を突きつけられ、まるさんは衝撃で放心状態になった。ただ、それでも実親を探すのを諦めきれなかった。
「実親探しはずっとしんどい気持ちはありましたが、自分のアイデンティティを探るのは執着というか、頭で理解していても止められない行為でした。家でも終始、実母のプロフィールをネットにかけて、知りたいという気持ちの一心でした。
あと実母にもやむを得ない事情があったのではないか。本当は自分と離れたいわけではなかったのではないか。そう期待する気持ちを捨てきれなかったのも大きかったと思います」
シングルマザーであった状況や、水商売などで生計を立ててきであろう背景を鑑みれば、実母の人生もまた壮絶だったのかもしれない。実親に関する情報を得るたびに、新しい疑問が浮かんでは、真相を追い求めたくなる気持ちは抑えきれなくなった。