店員に迷惑をかけたことを詫び、まだ少し意識が朦朧(もうろう)とする中、必死に居酒屋の階段を登り切ったところで、婚約者のXさんが待っていました。しかし、迎えに来た彼の口から出たのは「大丈夫?」ではなく──。
「
恥かかせないでよ」
その一言は、体よりも心を突き刺しました。

oka – stock.adobe.com
「その時は、きっと彼は飲みすぎて、酔っていたから余裕がなかったんだと、自分に言い聞かせました。友人に紹介した婚約者に、その席でいきなり酔い潰れられて、恥ずかしかったに違いないと反省もしました。
でもトイレに行った連れが戻ってこなかったら、普通なら心配しませんか? 女子トイレには入れないけど、お店の人と見に来るとか。店員さんに聞いたらそういう行動もなかったそうです」
彼の友人たちは誰も戻ってこず、会計をとっくに済ませた彼らがどこで何をしていたのかも分からないといいます。その後、二度と会うことはありませんでした。
彼はタクシーに乗るとそのまま寝てしまい、ほとんど会話できないまま同棲していた家へ一緒に帰りました。そして目を覚ますと、いつも通りの明るい彼の姿がそこにありました。
みのりさんは「生理中だったからかも」「お酒に弱くなったのかも」と自分が納得のいく理由を探そうとしました。しかし冷静に振り返れば、
体調は良く、寝不足もなく、脳貧血や低血糖の経験もありません。生理のために頭痛や吐き気などを感じた経験もなし。
当時は週に何度もお酒を飲んで、朝まで飲み明かすことも珍しくなかった彼女が、お酒を1杯しか飲んでいないにもかかわらず意識を失ったこと。その後の記憶が曖昧だったこと。彼女の中にあった違和感を覆い隠すように
「自分が悪い」と考え続けるのが精一杯でした。