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「自殺未遂」「妊娠5か月で中絶希望」…なぜ彼らは“限界”まで耐えてしまうのか?子ども時代に支援を受けていても

生活保護、住民票の閲覧制限…さまざまな手続きを手伝う

高橋亜美さん そもそも虐待を受けた当事者たちは、安心な体験の積み重ねが少なく、そのぶん1回の挫折や失敗を重く捉えがちになる。側から見れば些細な失敗でも、本人からすれば「誰も自分を救ってくれない」「声をあげても無駄だ」とふさぎがちになってしまうのだという。  自我を塞ぎ込むことで、傷つかないよう自衛してきたからこそ、当事者が支援につながるハードルは高い。ひっ迫した状況で初めて支援につながるからこそ、被虐待者が抱えている障壁は幾重にも重なっている。 「相談者の大半は、本来なら受けるべきはずの公的支援を受けられていない状況下にあります。その背景を紐解いていくと、身元保証人がいないため就職や住居の確保が難しかったり、対人恐怖症が足かせになって通院できなかったりと、それぞれが抱えている事情が浮き彫りになっていきます。そうした障壁を緩めたり低くしたりして、安心な暮らしができるようサポートしています。 妊娠した女性からの相談がきたら、まずは本人が本当はどうしたいのかを一緒に考えます。それから通院のスケジュールを組む。親や家族を頼れず働くのが難しい人であれば、生活保護受給のための手続きに同行する。借金を抱えている場合は、弁護士事務所に行って自己破産の手続きを手伝う。あるいは暴力を振るう親や配偶者から身を守るため、住民票の閲覧や交付を制限する申請を行う場合もあります。 そうして生活の基盤を築いていく間に、並行して居場所やサロンの提供も行っています。高卒認定の学習会を行ったり、一般就労が難しい人と共に働く場としてジャム作りや農園作業をしています。居場所利用の年齢制限はなく無料で提供しています」

“一生付き合う覚悟”で向き合う支援の現場

 社会的養護を受けた人の苦悩は、成人しても消えることはない。それは同時に、支援者の労力も並大抵のものではないことを示唆している。 「変な言い方かもしれませんが、私たちが相談者と出会うとき、『一生この人と付き合っていくかもしれない』という心構えをしています。 例えば、生活保護を受給して、アパートも借りられたため、一人暮らしをできる環境になった人がいたとします。ただ、それでめでたしというわけではなく、将来への不安から希死念慮が生まれたり、鬱っぽくなって家がゴミ屋敷と化したりと、また更なる支援を求められることはよくあります。 相談所を立ち上げて15年目になりますが、成人後のケアに終わりはなく、出会ったひとたちの多くが「ゆずりは」を拠り所としています。それだけ支援や伴走には、終わりがないのだと日々痛感しています」  高橋さんは笑いながら話すが、その根気は相当なものであるはずだ。相談者に振り回されたり、無理難題を突きつけられたり、疲弊する瞬間も多いだろう。
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スパルタ教育のストレスで「万引き」を繰り返した過去
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