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年間7万人が受検する出生前診断…「命の選別をするのか」と咎める学会への医師の憤り「年間12.7万件以上の中絶を許容しながら」

「事前に知る」という選択肢の大切さ

岡博史医師

ヒロクリニック統括院長、岡博史医師

 NIPTが妊娠10週で結果を出せるのに対し、確定診断となる羊水検査は16週以降。この「6週間」という時間は、母体にとってあまりに重く、残酷だ。 「本来、NIPTは『陽性か陰性か』の二択でしかありません。しかし、陽性が出た際、『もしかしたら偽陽性かもしれない』と、羊水検査まで望みを捨てきれずに過ごされる方は大勢います。カウンセリングを通じ、この過酷な6週間を悲痛な面持ちで耐え忍ぶ姿を、私は何度も目にしてきました。 そこで当院では『陽性スコア』という独自の指標を導入し、確実性を数値化して提示しています。一刻も早く、納得感のある決断を下してほしいと願うからです。一方で、陽性判定のあとにパタリと連絡が途絶える方もいます。それは、ご夫婦で静かに決断を下されたのだと理解しています。非常にデリケートな問題ですから、こちらから深く踏み込むことはしません」  岡氏は、何より大事なのは「事前に知るという選択肢を、家族が権利として持つことだ」と強調する。 「医療の進歩により、ダウン症の方でも60歳まで生きられる時代になりました。しかし、もし40歳で出産した母親が、わが子が還暦を迎えるまで面倒を見続けられるか。それは現実的に厳しいと言わざるを得ません。障害を持つきょうだいの世話のために自身の結婚やキャリアを断念する『きょうだい児』も、無視できない社会問題となっています。私は、決して障害を排除せよと言っているのではありません。 しかし産婦人科医は、産まれた瞬間に役目を終えます。その後の数十年間にわたる家族の苦労を、彼らが肩代わりしてくれるわけではありません。にもかかわらず、きれいごとで障害児の出産を事実上強制するのは、あまりに無責任ではないかと思うのです」 「命の選別」という美しい言葉で議論を止めるのではなく、母親の人生、そして家族の未来に寄り添うための情報をどう提示するか。出生前診断という選択肢は、単なる検査以上の意味を、私たちに問いかけている。 <取材・文/桜井カズキ>
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