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禁断の“猪木発言”の裏側/中邑真輔インタビューVol.2【プロレス女子の手記7】

 新日本プロレス、中邑真輔。「イヤァオ!」「たぎる」など、独特なフレーズで圧倒的な存在感を放つ。これまで数々の名言を残してきた中邑選手だが、中でも2009年に多く見られたキーワードがある。“ストロングスタイル”だ。  ストロングスタイルとは、アントニオ猪木が提唱した「強さ」を追求する新日本プロレス独自のスタイル。しかしそう一言で定義づけるにはあまりにも入り組んだ歴史があり、深淵な言葉である。ストロングスタイルとは何か? 強さとは何だろうか? 「アントニオ猪木最後の弟子」と呼ばれた中邑選手に聞いた。 写真1――2009年4月、「ぬるいレスリングはもう終わりだ」と発言されていますが、どのような心境だったのでしょうか? ※「ぬるいレスリングはもう終わりだ。ストロングスタイル見たいんだろ? 新日本を観に来てるんだろ? 俺が見せてやるよ」(2009年4月11日・ツインメッセ静岡) 中邑真輔(以下、中邑):当時は新しい自分を生み出そうと、必死でした。ヒールターン(悪役への転向)をした頃で、それまでぬるいレスリングをやっていた自分にも嫌気がさしたし、それを良しとする全体の雰囲気もすべて翻したかった。 ――ちょうどCHAOS結成時の発言ですね。中邑選手にとっての「ぬるいレスリング」とは? ※CHAOS=中邑が立ち上げたヒールユニット。『CHAOS COMPLETE BOOK』(イースト・プレス)参照。 中邑:肉体改造で体重を増加させて、若干、パワーファイター寄りの試合をしていました。かつRISEというユニットに所属して、そこは居心地が良すぎたというか、このままでいいのかと。本来自分の求めていたものは何か? なりたい自分は?と、打破しようとしていたんだと思います。 ――そして禁断の“猪木発言”へと続きます。 ※「猪木――! 旧 IWGP王座は俺が取り返す!」(2009年9月27日・神戸大会) 中邑:背景としては、アントニオ猪木は新日本プロレスにおいてトラブルメーカーだったわけですよ。とくに金銭的にも。それへのストレスが歴史的に繰り返されていて、爆発して、またまたまた……みたいな感じだったんですけど。ユークスに株式を譲渡してから、反動か、新日本プロレスの中でアントニオ猪木色がなくなってきたんです。当時の新日本プロレスは、アントニオ猪木という存在をなかったことにして、次の段階に進もうとしているんじゃないかと、僕は感じていたんです。 中邑:IWGPが創設されたときのことを“旧 IWGP”と言うんですが、「旧 IWGP=アントニオ猪木」と置き換えて、なかったことにするくらいだったら一発張ってでもお別れしようぜ、というような意味が僕としてはあったんです。ただ、新日本的にも業界的にも、もの凄い爆弾を落とした。簡単に言うと、アントニオ猪木に喧嘩を売ったということですから。
写真2

『中邑真輔自伝 キング・オブ・ストロングスタイル 上下巻』 『CHAOS COMPLETE BOOK 新日本プロレスブックス』(イースト・プレス)

――猪木発言で、猪木さんへリング上での戦いを挑んだわけですが、もちろん実現はしなかった。 中邑:イケるんじゃないかとは思ったんですよ。この世の中、何でも起こりうる。ただ、自分は一歩踏み出しすぎたということで、関係各位にかなりの波紋を広げました。自分の中でいろいろなものが欲求としてあったんでしょうね。自身の現状や体制への抑えきれない反骨心だったり。 ――その後、棚橋選手の「ストロングスタイルっていうのはただの言葉」というマイクに対して、「過去と戦って何が悪い!」という名言を残されています。 ※「過去と戦って何が悪い! 昔を超えようとして何が悪い! 未来は俺が作る! 生きたいように生きる! なりたい自分になる!」(2009年11月8日・両国国技館) 中邑:猪木発言を、棚橋弘至からすればそう感じたんでしょう、「ストロングスタイルの呪い」と言ったんですよね。でもそれが棚橋弘至としての自己主張。「新日本プロレス=ストロングスタイル」と考えると、自分としては正面から向かい合って捉えなければ意味がないなと。自分なりに、ストロングスタイルとはなんぞやと探していました。過去を否定するだけの人たちもいましたが、正面切ってなにが悪いんですか、と思いましたね。 ――ストロングスタイルとは、何だと思われますか? 中邑:ストロングスタイルとは何だ? プロレスとは何だ?というのはきっと、やっていく上で永遠のテーマでしょう。現時点でよく言葉にしているのは、「感情を吐き出す」ということです。アントニオ猪木に教わったことだったり、新日本プロレスの歴史の中で見聞きしてきたことだったり、自分の経験から感じていますが。とくにアントニオ猪木がテーマとしているのは“怒り”です。 中邑:感情をリングに落とすというのが、「プロレスの手段として吐き出す」ということだろうと自分の中では結論づけました。だから、感情をプロレスに落とし込んで発するというのが、ストロングスタイルなのではないですか、ということですね。 ――プロレスラーの“怒り”は、何に対する怒りなのでしょうか? 中邑:それは人それぞれです。社会に対する怒りだとか、現状への怒りだとか。そういうギスギスしたものをリング上に落とし込んできたレスラーは、歴史的に見ても影響力の強いレスラーだったんじゃないかと思います。 ――リングに怒りを落とし込む、ということで成功したレスラーというと? 中邑:憶測ですけど、アントニオ猪木のルーツだったり、長州力の“噛ませ犬”発言に見られるジェラシーだったり。俺はこんなもんじゃないぞ、という現状への不満だったり。そういうものを上手くリング上に昇華できた人間が、ストロングスタイルと言われてきたんじゃないでしょうか。代表的な中では。 ――中邑選手がリングに落とし込んでいる怒りは、どういった類ですか? 中邑:デビュー当初からあったのは、自分への欲求や、抑え込まんとするものへの反骨心と、言葉にならないような感情でしょうね。かつ、進行形でなりたい自分になろうとしている。プロレスは長いスパンで見られるから、その変化も見えてくるわけですよ。プロレスラーは人間だから気分もあるし、プレイヤーとしても先は長いですから。 ※次回、Vol.3 プロレスラー中邑真輔の最大のテーマ「感情のコントロール」へ続く。 <取材・文/尾崎ムギ子 撮影/タカハシアキラ>
尾崎ムギ子
1982年4月11日、東京都生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒業後、リクルートメディアコミュニケーションズに入社。求人広告制作に携わり、2008年にフリーライターとなる。「web Sportiva」などでプロレスの記事を中心に執筆。著書に『最強レスラー数珠つなぎ』『女の答えはリングにある』。Twitter:@ozaki_mugiko
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