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名古屋「ひつまぶし」セットは悩ましい【カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」】

 さらに、このひつまぶしセット、うなぎの量に対し、食い方の提案が多いのである。  まずプレーンでごはんにのせていただき、次に付属のネギや海苔などの薬味を載せていただき、最後のこれまた付属の出汁をかけていただくという寸法だ。  三切れに対し、食い方三種類である。実行するとしたら、うなぎ三切れで飯三杯食うという、どこの貧乏下宿生かという状態になってしまう。  よってもう、最初から薬味を全部のせ、茶漬けでいただくことにしたのだが、ここであることに気づいた。  このひつまぶしセット、一人前と銘打ってあるのに、付属のウナギのタレが二袋もあるのだ。

タレこそが貧乏人の味方

 古より、うなぎは貧乏人の敵だが、タレは得難き友だと言われてきた。うなぎ本体はなくとも、タレを飯にかけることによりそれはもう「うな丼」なのである。 「貴様結局タレで何とかするつもりだな!」  ブスにたくさん光を当てて美人に仕立て上げようとするような所業に、キレかけたが、このひつまぶしセットに罪はない。  何故なら、うなぎはやはり高級品なのだ。  そして、このセットは、金額はわからないが、割とお手頃なお値段なのだろう。ひつまぶしをお手頃価格で、ご家庭で楽めるようにしようと思ったら、やはりうなぎの量を絞るしかない。むしろタレ二倍なのは企業努力、サービス精神と言っていい。

高級な物を安く食おうとすると貧乏臭くなる

 肝心のうなぎだが、もちろん美味かった。しかし如何せん三切れである。タレだくにして、ちょっとずつ食うしかない。  今回わかったのは、高級な物を安く食おうとすると逆に貧乏臭くなるということである。うなぎを食うときは、金を気にしてはいけない、もうそういう食い物なのだと思った方がいい。  よって今後、うなぎを自費で食べるときは、スーパーで最安値のうなぎをさらに二等分して食うなどということはせず、もっと豪華にしたい。  今のところ、そういうことが出来る日は「心中前夜」ぐらいしか思いつかないが、その時は飯をおかずにうなぎを食うぐらいはしたいと思う。 <文・イラスト/カレー沢薫> 【カレー沢薫(かれーざわ・かおる)】 1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』で漫画家デビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。主な漫画作品に、『ヤリへん』『やわらかい。課長 起田総司』『ねこもくわない』『ナゾ野菜』、コラム集に『負ける技術』『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』『ブスの本懐』などがある。
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