「ある日、塾でSE男性が書いていきた小説を発表したのですが、主人公があきらかに私だったんです。名前も年齢も外見も設定がほぼ私でそこにいた全員が気付くレベルでした。
複数の男をたぶらかして嘘をつき、最後には登場人物に『本性をあらわしたな! このクソビッチ女が!』と罵(ののし)られていました」
想像しただけでもかなり壮絶な状況です…。
「教室中が静まり返ってましたね。みんな講評もできないというか……。弄(もてあそ)んでいた男性達もほぼ実名で登場してデート先までリアルに書かれていました。
講師だけが何も気付いておらず『いや~、最低な女の描写にリアリティがあっていいね』と褒めてまた場が凍りつきました」
SE男性は、夢中になっている時は褒め上げる一方、自分のアプローチになびかないと「クソビッチ女」としてディスり倒すという自分勝手なタイプで、さすが相手の迷惑かえりみずにストーカー化するだけありますね。
SE男性の迷惑行為は、公衆の面前で由奈さんに恥をかかせるだけにとどまらなかったようです。
「少女漫画のような世界が味わえてうれしかったし、なにより小説を書くのが楽しかったのですが、とうとうSE男性がSNSや塾の掲示板に私の悪口を書き込むようになったので怖くなって塾をやめました。アドレスも変えてSNSも全部削除です」
完全にタガが外れた粘着ぶりですね。
「SNS上でヤリマンよばわりされるのを友人に見られるのは、この歳になるとかなりイタかったです…」
そう語る由奈さんの背中が小さく丸まっているのがわかります。
「とはいえ、オタサーの姫だったときの恍惚感(こうこつかん)は忘れられないんですよね。今はまた乾いた生活に逆戻りです」
由奈さんはそう言うと、遠くを見つめながら弱々しく微笑みました。
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自分史上最悪の恋愛 vol.9―
<TEXT/瀧戸詠未 イラスト/やましたともこ>