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レイプ、DV…暴力の根本にあるのは相手への「恐れ」|斉藤章佳×中村うさぎ

暴力の根本にあるのは、他者への「恐れ」

斉藤:なるほど。男女で共通しているかわからないのですが、男が加害者性を出す時、つまり暴力を振るう時の感情の根っこは「恐怖」だと思うんです。これは、DVの加害者臨床を15年くらいやる中で、「なぜ男は女を殴るのか」というシンプルな疑問から始まったんですが、男性は自分より弱い、あるいは下だと思っている存在から反発される、もしくは見放され、排除されることが、ものすごく怖いんです。 ただ、男らしくあれ、弱さを見せるな、我慢しろ、と生育環境の中で条件付けられているので、怖さを否認するわけです。その怖さから身を守る方法の一つとして、暴力を選択する。暴力は選択しているのです。DVにしても性犯罪の問題にしても、加害者の根本にあるのは認めたくない他者への「恐れ」なんです 暴力の根本にあるのは、他者への「恐れ」中村:私はバツイチで再婚しているんですが、最初の結婚の相手は、直接殴ることはしないけどDV系の人だったんです。物を投げつけてきたり。彼がキレて暴れる時は、たいてい私に言い負かされた時なんです。女に言い負かされることがイヤだったんでしょうね。まあ男に言い負かされるのもイヤだろうけど。 人生において負けないで生きていく人なんていないじゃないですか。何かには絶対負ける。

助けを求めることは、生きるうえで必要なスキル

斉藤:私もずっとサッカー部で体育会系だったから、負けを受け入れられなかったんです。特に怪我をしてサッカーで飯を食っていくことを諦めたときは、「裸で外を歩いている」感覚でした。他者との間で自分が優越感(酔い)を感じることができる手段を失った喪失感は、アルコール依存症者が酒をやめてしらふで生き始めた頃の心情と似ているかな。 でもそれは、クリニックに就職してから変わりました。最初に携わったのがアルコール依存症の現場だったんですが、AA(自助ブループ)ではみんなが自分の弱さについてオープンに話し合うんです。弱さをオープンにすることが、仲間の強さになるから。 ある時、AAの仲間の一人から「あんた正直な話が出来てないな。あんたの弱い話が聞きたいよ」って言われたんです。完全に見抜かれていると思いました。それから自分の弱さについて素直に話すようになって、それを受け入れられる心地よさに気づいたんです。つながるって心地いいんですよ、すごく。 中村:そうなんですね。 斉藤:それでも、私の「勝たなきゃいけない病」は抜けなくて、勤めて1年目の時に上司から、「今の仕事のやり方ではいずれ燃え尽きる。あなたは助けを求めるのがすごく下手だから、1日に1回でいいから職場で『助けて』って言いなさい」と言われたんです。 中村:助けがいらなくても? 斉藤:新人なのに助けが必要であるということを否認してましたから。まぁ、端的に言えば仕事を抱え込むクセを見抜かれていたんだと思います。私にとって人に助けを求めるのはすごく辛いことでした。なぜかということ他人に助けを求めるには「謙虚さ」が必要なんです。それを繰り返しやっていくうちに、助けを求めることが生き抜くためのスキルになってきました。実は、人に助け求めることは依存症の治療の第一歩でもあるんです。
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自立とは依存先を増やすこと
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