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Vol.4 学歴の低い彼女が「かわいそう」で結婚して、離婚・再婚した男性の胸の内

妻を哀れんでいた

 田中さんにとっては、ロジックむき出しの衝突のほうが、言葉が通じない苦痛よりずっと好ましいのだ。これは「同業者夫婦の破綻」の真逆。同じ要因が結婚の要因にも、離婚の要因にもなるというわけである。 「僕は目的意識を持って生きている、自立した女性が好きだったんです。それを、前の結婚では明確に意識できていませんでした」  その言葉を皮切りに、田中さんはようやく里美さんの人となりについて話しはじめた。 「里美は僕よりずっと学歴が低くて、職種もごく普通の事務職です。とくにキャリアへのこだわりもない。誰かと結婚して子供をつくってお母さんになって生きていく以外にプランがないように見えました。これは本当にクズ発言だと重々承知ですが……僕はそんな彼女のことをどこか哀れんでいた。かわいそうな存在だと思っていたのかもしれません。だから7年も付き合ったあげく放り出したら、この人は生きていけなくなるだろうと不安になったんです」 妻を哀れんでいた 救済のための結婚。しかし田中さんは、結局音を上げてしまう。 「自分の意見や言葉がなく、目的意識もなく生きている里美のことが、僕はすごく……嫌だったんでしょうね。うん、嫌でした」  裏を返せば、田中さんが取材冒頭でなにげなく口にした「普通の、か弱くて優しくていい子」という里美さんのパーソナリティが、田中さんにとっては離婚原因のすべてだったのかもしれない。 「哀れむだの、かわいそうだの……。あの時の僕は、里美の人格を尊重していなかったんですよね。今日稲田さん(筆者)とお話しして、ようやく思い至りました」  10年近く前の離婚にも、いまだに新しい発見がある。田中さんは「話のできる相手」である亜希子さんに、この発見をどんな言葉で伝えるのだろうか。あるいは、伝えないのだろうか。 ※本連載が2019年11月に角川新書『ぼくたちの離婚』として書籍化!書籍にはウェブ版にないエピソードのほか、メンヘラ妻に苦しめれた男性2人の“地獄対談”も収録されています。男性13人の離婚のカタチから、2010年代の結婚が見えてくる――。 <文/稲田豊史 イラスト/大橋裕之 取材協力/バツイチ会>
稲田豊史
編集者/ライター。1974年生まれ。映画配給会社、出版社を経て2013年よりフリーランス。著書に『映画を早送りで観る人たち』(光文社新書)、『オトメゴコロスタディーズ』(サイゾー)『ぼくたちの離婚』(角川新書)、コミック『ぼくたちの離婚1~2』(漫画:雨群、集英社)(漫画:雨群、集英社)、『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)がある。【WEB】inadatoyoshi.com 【Twitter】@Yutaka_Kasuga
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