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桃太郎がリア充に…独自ストーリー付き“きびだんご”白桃味/カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」

カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」Vol.27 岡山県「きびだんご」】 桃太郎のきびだんご 今回のテーマは「きびだんご」である。  きびだんご、と聞いて何を思い浮かべるだろうか。  まずは「桃太郎」だろう。「急募:鬼退治構成員 給与:きびだんご」という、現代でもお目にかかれないブラック企業の話である。  しかし、きびだんごで鬼退治お供しますぜ、と言い出したのは、犬、猿、雉、の方である。当時としては「きびだんご」というのは「週休二日社会保険完備」とかより魅力的なものだったのかもしれない。  次に思い浮かぶのは「岡山県」だろうか。つまり桃太郎発祥の地が岡山県で、それ故にきびだんごが有名なのだろう、と考えがちだが、実は桃太郎の「きびだんご」と岡山銘菓としての「きびだんご」は、同じ物というわけではないらしい。

桃太郎の「黍団子」と岡山の「吉備団子」の関係は?

 桃太郎でババアがこさえたのは「黍団子」で、岡山のそれは「吉備団子」だそうだ。 「黍団子」はその名の通り黍(キビ)の粉を団子にしたもので、「吉備団子」は昔“吉備国(きびのくに)”だった岡山で作られた団子である。
キビ

雑穀の黍(キビ)

「吉備団子」のほうも昔は黍で作られていたかもしれないが、現在ではもち米の粉で作られており、香りづけに黍を使うこともあるが、使わない場合もあるという。  今でも桃太郎の「黍団子」と岡山の「吉備団子」の関係は証明されていないそうだ。つまり無関係の可能性も高い。  しかし「桃太郎伝説」自体、動物を連れて鬼を倒すという、ドラゴンクエストⅤであり、つまりファンタジーだ。実際の犬や猿、団体などとは関係ない。  よって、せっかくたまたま同音であった「桃太郎のきびだんご」を無視して売る方が逆に嘘くせえ、ということで、岡山県は早くから「吉備団子」を桃太郎と関連付けて販売しており、今も土産物として人気を博している。

きびだんごの老舗「廣榮堂」、160年本当にいろいろあった

廣榮堂 元祖きびだんご

廣榮堂 元祖きびだんごAmazon販売ページより

 そして今回送られてきたのは「廣榮堂(こうえいどう)」のきびだんごである。  廣榮堂は安政3年創業、160年の歴史を持つ老舗であり、きびだんごとのつきあいも150年だという、すごく長続きしているカップルだ。  廣榮堂のHPを見に行くと「廣榮堂のきびだんご160年のあゆみ」という文章が掲載されているのだが、非常に読みごたえがある。簡単に言うと長い。しかし160年もやっていて「何も書くことがない」というのも逆に問題だ。  実際その内容も、戦争、空襲、不況、震災、O157と「本当にいろいろあった」としか言いようがない波乱万丈ぶりである。やはり何かを160年続けるというのは生半可(なまはんか)なことではないのだ。
「廣榮堂のきびだんご160年のあゆみ」

「廣榮堂のきびだんご160年のあゆみ」の一部 http://www.koeido.co.jp/150years_top.html

 印象的なエピソードとしては、「革新の人」と呼ばれていた廣榮堂初代「浅次郎」が、広島に大本営が置かれた日清戦争時、兵隊が集まる宇品港に桃太郎のコスプレで駆けつけ「鬼ヶ島を成敗した桃太郎の皆さま、凱旋祝(がいせんいわい)には岡山の吉備団子ですぞ」と宣伝をしたというものがある。  現代だったら即写メられて3万リツイートぐらいの大炎上だったかもしれないが、当時はツイッターがなかったためか、その作戦は大当たりで、きびだんごは飛ぶように売れたという。  この「やはりきびだんごと言えば桃太郎でござろう」という作戦は、当時だけに留まらず、平成になってからも「やっぱ桃太郎じゃね?」となった。かどうかは知らないが、あらためて「岡山のきびだんご」ではなく「桃太郎のきびだんご」として全国の子どもに食べてほしいという目標のもと、世界的絵本作家、五味太郎氏が描く桃太郎パッケージ版「元祖きびだんご」が平成5年に発売された。
 そしてこれが、年間目標販売数20万箱のところ、200万箱売り上げたというのだから、「やはり桃太郎だな」としか言いようがない。
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桃太郎がリア充になっていやがる
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