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発達障害の少女がノーベル平和賞候補に。“普通じゃない”という才能

 先日、ノルウェーの左派政党からノーベル平和賞に推薦され、一躍時の人となったグレタ・トゥーンベリさん(16)。スウェーデン人の高校生で、地球温暖化に警鐘を鳴らす活動家として知られています。
 昨年の夏休み明けに学校を休み、たったひとりで国会前での座り込みを始めたところ、世界の学生たちの間でデモが広がりを見せたのです。これをきっかけに、去年12月には国連に招かれ、先進国の政治家を痛烈に批判するスピーチを披露し、聴衆の大人を驚かせました。

発達障害の16歳少女がノーベル平和賞候補に

 そんなトゥーンベリさんには、もうひとつ関心が寄せられる理由があります。それは、彼女が12歳のときにアスペルガー症候群(※)だと診断されたこと。  でも、彼女の家族は、今ではそんな“病気”を恩恵だと受け止めているといいます。なぜなら、人付き合いに気を取られない集中力のおかげで、ひとつの問題に対してブレずに取り組めるから。  トゥーンベリさんは、こう言います。 「私のしていることに望みがあるかどうかはどうでもいいの。とにかくやらなければいけないことだからやるだけなの。たとえあらゆる希望がことごとく絶たれていたとしても、できることをしなければいけないの」 (イギリス『The Guardian』 The G2 Interview 2019年3月11日より 筆者訳)  力強い確信に満ちた言葉ですよね。 ※アスペルガー症候群や古典的な自閉症は、現在ではまとめて自閉スペクトラム症(ASD)と呼ばれる。発達障害のひとつ。
グレタキャンペーン

グレタさんが始めた運動は若者たちに広がり、欧州各国で数万人規模のストライキが行われている。写真は今年3月15日、スロベニアで(C) Gregor Jeric

 そしていま、トゥーンベリさんのようにアスペルガーなど発達障害を持つ人たちを、別の知性として捉える動きが出始めています。社交ができなかったり、“ふつうとは違う”からといって、治療やケアで対処するのではなく、独特な認知方法の持ち主だと認めようというのです。

自閉症の人たちの、豊かな感覚世界

自閉症という知性』(著:池上英子、NHK出版新書)は、そんな当事者たちとの対話を通じて、彼らに世界がどう映っているかに迫った一冊。著者はニューヨーク在住の著名な社会学者です。 自閉症という知性 登場するのは――実際の人間とは会話に困るのに、ネット上の仮想空間ではおどろくほど饒舌なラレさんという男性。論理的でボキャブラリーも豊富でありながら、ふとしたきっかけで自らをコントロールできなくなってしまうコラさんという女性。アスペルガーの「自分」を認識するために、自閉症的世界をマンガで表す葉山さんという女性。そして、感覚過敏を「うわわオバケ」と称する女性ギタリストの高橋紗都さん。  彼らに共通するのは、物事への感じ入り方が自分の内面と密接につながっているために、コミュニケーションに不具合が生じてしまうという点。ギタリストの高橋さんのエピソードが象徴的です。たとえば、ギターの音色を表現するのは、こんな具合に。 <好きな音は、「音の芯」がやわらかくて、「音の家族」もたくさんいて、その音の家族は風でふわーと飛んだときの、たんぽぽの綿毛のように広がる音です。>(p.227) たんぽぽ
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それは本当に「障害」なのか?
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