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Vol.13-1 「思い通りにならないことに耐えられない」吃音に苦しんだ男性が離婚を選んだワケ

離婚は“円満”だった

「当時の由香は由香で、ストレスを抱えていました。僕が休職した少し後に異動の辞令があり、今まで通勤1時間圏内だったのが、片道2時間もかかる支店勤務になったんです。通勤経路は私鉄を3本乗り継ぐんですが、どれも朝と帰りの通勤ラッシュが尋常じゃない路線でした。ヘトヘトになって帰宅したら僕がソファでだらだらしているし、そりゃ『いつ復帰するの?』とも言いたくなりますよね」  夫婦お互いの存在がお互いにとって一番のストレス元という、最悪を絵に描いたような状況。たまらず、ふたりは別居することにした。由香さんが、両親の住む都内の実家に戻ったのだ。由香さんの実家のほうが新しい勤務地に近かったことも、別居を後押しした。  別居中、片山さんは8ヶ月ぶりの職場復帰を果たす。しかし夫婦関係は改善せず、由香さんがマンションに戻ればまたケンカばかり……という日々が続いた。そのうち由香さんが頻繁に「離婚」を口にするようになり、2010年に離婚。約2年半の結婚生活が幕を閉じた。 ※写真はイメージですこう言ってはなんですけど、離婚自体は円満でした。子供はいませんでしたし、貯金はきっちり半々に割って、慰謝料などもなし。結婚前に僕名義で買っていたマンションは、由香が出ていった後もそのまま僕が住み続けました。何人かの友人からは『そんな理由で離婚するの? もっと話し合いなよ』とも言われましたが、僕も由香も完全に納得していたので」  しかしここまで聞いても、片山さんが由香さんのどこに魅力を感じて結婚したのかが、いっこうに見えてこない。「次に付き合う人と結婚しようと決めていた」「仲間由紀恵似の顔が好みだった」。それ以外は? そもそも、由香さんは片山さんに何を求めていたのだろう? どうすれば由香さんは満足したのか? しかし、その質問に片山さんは「わかりません」を繰り返す。ややあって、片山さんは口を開いた。 「僕、離婚した直後に、人間がなんのために生きているのか、わからなくなった時期があったんです」  筆者はそこではじめて気づいた。片山さんは左手の薬指に「指輪」をしている。片山さんは話を続けた――。 ※続く#2は、8月6日に配信予定。 ※本連載が2019年11月に角川新書『ぼくたちの離婚』として書籍化!書籍にはウェブ版にないエピソードのほか、メンヘラ妻に苦しめれた男性2人の“地獄対談”も収録されています。男性13人の離婚のカタチから、2010年代の結婚が見えてくる――。 <文/稲田豊史 イラスト/大橋裕之 取材協力/バツイチ会> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
稲田豊史
編集者/ライター。1974年生まれ。映画配給会社、出版社を経て2013年よりフリーランス。著書に『映画を早送りで観る人たち』(光文社新書)、『オトメゴコロスタディーズ』(サイゾー)『ぼくたちの離婚』(角川新書)、コミック『ぼくたちの離婚1~2』(漫画:雨群、集英社)(漫画:雨群、集英社)、『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)がある。【WEB】inadatoyoshi.com 【Twitter】@Yutaka_Kasuga
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