Vol.13-2 離婚した僕に愛犬が教えてくれたこと「泣いて犬に謝りました」
【ぼくたちの離婚 Vol.13 離婚して、良かった #2】
幼い頃から吃音に苦しんできた片山孝介さん(仮名/43歳)は、成長するにつれて「自分の思い通りにならない」ことに激しいストレスを感じるようになった。そのことは妻・由香さん(仮名)との結婚生活にも影を落とす。鬱を患った片山さんの休職で夫婦の溝はさらに深まり、やがて離婚。由香さんは家を出ていった。
由香さんが結婚生活に何を求めていたのかが「わからない」と言う片山さんは、やや唐突にこんな話をはじめた。
「僕、離婚した直後に、人間がなんのために生きているのか、わからなくなった時期があったんです。今でもその答えはわかりませんが、もしかするとこのためなのかな? って思えた瞬間は何度かありました。そのひとつが、由香とマンションの部屋で飼っていた犬のことです。
その犬は僕が鬱で一日じゅう家にいた頃、毎日のように由香の帰宅時間を見計らって玄関で待っていました。離婚後は僕が引き取ることになったんですが、引っ越し屋が由香の家具を部屋からどんどん搬出していくのを見て、明らかに戸惑った顔をしてるんですよ。『ええっ? どうしたの? なんなの?』って。しかも、由香が出て行ってからも、帰るはずのない由香を毎日玄関で1時間くらい待ってるんです。それがつらくて、つらくて……」
片山さんの声に熱がこもる。
「犬と2人きりの……1人と1匹の生活になってからも、僕はあいかわらず会社でストレスを溜めていました。離婚したって何も変わらない。仕事はあいかわらず思い通りにはならない。イライラして、どうしようもなくなって帰ってくると、犬はどうしたって動物ですから、なんやかやと思い通りにはなりません。さらにイライラを募らせていました。
ある朝、出勤前に犬がちょっとした粗相(そそう)をしてしまいました。僕は必要以上に怒ってしまい、感情に任せて思わず彼をつねったら、僕のことをものすごく怖がって、その場でさらに脱糞しちゃったんです。それで僕、さらに腹が立って、お前の責任だからな!と吐き捨てて、片付けないでそのまま出てきてしまいました。
家を出てから本当に後悔しました。高校時代、学校での鬱憤を家で妹に当たっていた自分から、何も成長していない。心底、自分が嫌になりました」
その日の夜、家に帰った片山さんがおそるおそるドアを開けると、犬は糞まみれの汚い部屋から一目散に彼のもとに、目一杯しっぽを振りながら駆け寄ってきた。
「あんなにひどい仕打ちをしたのに、しっぽを振りながらすごく嬉しそうに。僕、泣いてしまって。ごめんごめんって、何度も彼に謝りました」