不倫する夫婦の物語「夫は浮気することで私をより愛してくれている」
「夫は浮気することで私をより愛してくれている」この言葉をあなたはどう思いますか?
日本は超ソロ国家と言われ、2040年には人口の半分が未婚になるそうです。一生同じ人と添い遂げることの難しさを誰もが分かっていることも未婚者が増えている理由なのかもしれません。一方、結婚の代わりにパートナーシップを選ぶカップルが増えているフランスでは、結婚の価値観も変わっているみたいです。
フランスの現代の夫婦の姿を描いたジュリエット・ビノシュ主演の映画『冬時間のパリ』が12月20日に公開されます。冒頭の言葉はビノシュ演じる女優の妻が語ったセリフ。なんと彼女も浮気をしています。もしも私たちが、よき夫やよき妻という社会規範から逃れられたら……ひょっとしたら新しい夫婦の形が生まれるかもしれません。本作の監督であるフランスの名匠オリヴィエ・アサイヤスに夫婦の関係性や愛の定義について話を聞きました。
――この映画の題名はフランス語では『二重生活(Doubles Vies)』、英語では『ノン・フィクション(Non Fiction)』です。
オリヴィエ・アサイヤス監督(以下、アサイヤス監督)「フランス語でDoubles Viesというのは、家庭とは別にもうひとつの生活がある、二重の生活という意味です。不倫をしている既婚者は二重の生活を送っていますよね。
そして、映画では作家のレオナールが自分の私生活を綴ったノン・フィクションを小説として書いています。彼の小説に出てくる登場人物は現実のノン・フィクションの人々だけれども、彼の小説ではフィクションとして描かれている。そもそも、私たちの人生はある意味、感情の面においてはフィクションの部分がありませんか?」
――確かに。私たちの誰もが矛盾する心を抱えていて、不倫をしていなくとも、メンタル的に二重生活を送っているとも言えますね。本作に登場する人物はみな感情面に不透明なところがあり、たくさん議論をしますが、言っていることもコロコロ変わるし、言っていることとやっていることが違います。
アサイヤス監督「人間って本当にそれぞれに複雑だと思うんですよね。私たちの誰もが様々な顔をもっている。脚本を書くときは人間の複雑な側面を描かないと登場人物に息が吹きこまれず、嘘っぽい人間像になってしまいます。私たちは全員なにかしらの葛藤を抱えて生きているし、矛盾しています。でも、それが人間だと思う」
――現代社会では未来を予測し、目標を立ててそれに向かって計画することがよしとされていますが、本作はこの現代の価値観に抗うように、“未来は予測不可能”だということを映し出していますね。
アサイヤス監督「私たちは自分たちの感情を完全に支配することはできません。人生において、思いがけないことや計画していないことはよく起こります。自分の欲しいものや、やりたいことが頭では分かっていても感情を完全にコントロールしたり、感情を合理的に計画したりできますか? 誰だって悪いと分かっていてもやってしまうことがある。人は時として無意識的に行動してしまうからです。ところが、こういった人間の特性を認めたがらない人が世の中には多い」
――人生を計画する、自分の感情をコントロールするといった価値観は最近の傾向だと思いますか?
アサイヤス監督「私が育った1970年代は色々な考え方が受け入れられたリベラルな時代だったと思います。ところが現代は、ピューリタン的な善悪で物事を二極化しようとする傾向が強くなった。物事を善悪で決め付けてしまう今の世の中は、若い世代の人にとっては、生きづらいのかもしれません。
だから、本作で複雑な人間関係や人間の感情をコミカルに軽く描きました。もし人間の複雑性をドラマチックなメロドラマとして映し出したら、人生が余計に生きづらくなってしまう(笑)。人生は笑い飛ばして生きたほうが楽しいから」
人は誰でも二重生活を送っている
人間は感情を支配することはできない
12月20日(金)Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショ