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木村花さんを苦しめたSNSの誹謗中傷。匿名の相手を訴える方法は?

裁判は「時間との勝負」

 こうした手続きのややこしさに加え、個人の特定は「時間との勝負」だと小沢弁護士はいいます。 カレンダーとペン「じつは、サイト管理者がIPアドレスや投稿日時の記録を持っている期間に制限があるんです。各社、公表はしていませんが、経験上の感覚でいうと、ツイッター社は投稿から3か月まではギリギリ持っていると推測しています。その期間が過ぎてしまえば、裁判所が出せといっても、『ありません』で終わってしまうんです」  また、サイト管理者が外国の法人であれば、その法人の日本でいうところの登記簿謄本にあたるものを海外から取り寄せたり、申立書などを英語に翻訳したりする必要があり、さらに申立書を海外の法人に郵送したりしなければならないため、それだけで3週間から1か月かかってしまうそう。  うーん。これは大変だ……。

弁護士さんに頼むべき?

「弁護士は代理人に過ぎませんから、こうした手続きは個人でも行えます」というけれど、話を聞くと現実問題としてはかなり難しそう。 「特殊なノウハウがいるのは確かです。まず、サイト管理者がどこの誰であるのか、サイト内の記載ではわからない場合があります。この場合、管理者を調査するのに時間がかかりますし、適切な調査方法にたどりつかなければそうこうしている間にタイムオーバーになります。反面、この手の案件を扱っている弁護士であれば、経験上、誰がサイト管理者で、どのように調べればそれがわかるのか知っているので、探す時間が省けます」 裁判所 また、サイト管理者が海外というケースもあり、その場合、日本の登記簿にあたる書面がなんなのか、それをどのように取得すればよいのか調べなければいけません。まちがった資料を取得すると、裁判所に申し立てた段階ではねられてしまい、手続きが先に進まない、なんてこともあるそう。 「海外法人を相手にする場合、日本法人だったら不要な上申書をいくつも裁判所に提出しなければいけませんし、主張の中身についても、じつは名誉権侵害の3要件のほかにも要件があって、それらをもれなく根拠資料を示して説明する必要があるんです。   普通、一般の方は隠れた要件があることは知りませんし、裁判所も相手方のある手続なので、平等の観点からなにをどう証明すればよいのか教えてくれません。書類に行き詰まっている間にサイト管理者の情報が消えてしまうということは十分考えられる。というか、そうなる可能性のほうが高いと思います」

弁護士費用の相場は?

 うーん、こんなの絶対に素人ではやっぱり難しい……。となると、気になるのはやっぱり弁護士さんにお願いしたときの費用。  小沢弁護士の場合、発信者情報の開示請求までで税込66万円。個人を特定したあと、損害賠償請求をする際に、発信者の特定に要した費用66万円を慰謝料にプラスして相手方に請求するかたちになるのだとか。 「ただ、最近では66万円が全額認められるというケースはまずありません。そのため、ご相談をうけた際、『お金の問題としては数十万円の赤字を覚悟してください。どこの誰か特定し、インターネットで中傷されることから逃れるという結果を、お金を払って手にするのだと考えてください。お金をプラスにすることを中心的な目的にされると、おそらく開示に成功して損害賠償請求の結果いくらか得られたとしても、最終的に不満が残ります』と説明し、納得していただいたうえで事件を受けています」  匿名の相手にSNSで中傷されて訴える場合、現行の法だとこんなに煩雑なのでした。明日の後編では、にわかに起こる「法改正論議」について、引き続き小沢弁護士の解説とともにお伝えします。 【弁護士 小沢一仁】 インテグラル法律事務所所属。離婚事件、破産など個人に関する事件から著作権法・商標法等知的財産権をはじめ、様々な分野の法人に関する事件、暴力団対策に関する事件など幅広い案件を担当。インターネットにおける誹謗中傷に関する事件は、SNSが広まる前のインターネット掲示板が主流だったころから精力的に取り組んでいる。 <取材・文/鈴木靖子>
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