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Vol.15-3 「あなたの大切なものは全部奪う」離婚を告げたら妻が脅迫…夫がとった作戦とは

自傷行為を責められる

 ある週末、志津さんが休日出勤で仕事に出ている間、家にいた仲本さんは衝動にかられ、もらい物のウイスキーをストレートで何杯もあおった。気分が悪くなってトイレで嘔吐。その際、わざと頭を壁やタンクにぶつけて自分を傷つけた。頭には無数のこぶ、額は腫れて真っ赤。そのままトイレの床で何時間もうずくまっていると、志津さんが帰ってきた。 「姑息な方法ですが、自傷行為を志津に見せつけることで、抗議しようという気持ちがありました。でも帰ってきた志津は、ウイスキーの瓶と僕を見て、ため息をつきながら“ほとほとウンザリ”という顔をしてきたんです。『そんなことする人だったっけ? なんなの、それ』と。僕は『ごめんなさい……』と、トイレの床に額をこすりつけて謝りました。 いたわってくれなんて、今さら求めません。ただ一言、大丈夫? とだけ言ってほしかったんです。ただ何か優しい一言が欲しかった。それだけなんです……」  仲本さんは言葉をつまらせた。

妻が心の病気だから離婚したんじゃない

「もう限界だと感じたので、近所の心療内科を電話予約して診察してもらいました。心療内科なんて生まれて初めてです。先生はすごくいい人で、焦らずゆっくり話してくれていいですよ、と。丁寧な相槌だけを打って、僕の結婚生活の苦しみを、最初から最後まで聞いてくれました。そして『明らかに異常だと思います。よくここまで頑張りましたね』と。どばっと涙があふれました」 ※写真はイメージです 抗うつ剤を処方してもらった仲本さんは、すぐに薬を飲むため近くのデニーズに駆け込んだ。 「胃が弱っていたので、石窯ブールという小さなパンをひとつだけ注文しました。頬張ったら久しぶりに味がしたんです。ものすごく美味しくて……。同じものをさらに2つ追加注文して、ありったけ口に詰め込みました。ああ、味がする、味がするって。内臓に染み込んでいく気がしました」  通院と投薬によって少しだけ冷静に物事を考えられるようになった仲本さんは、いっそ会社を辞め、まったく違う業種に転職する可能性を志津さんに伝えるが……。 「やんわり『今より収入が下がるのは困る』と言われ、『転職先の仕事がもし合わなくても、私に当たるのは絶対にやめて』と釘を刺されました。応援とか激励の言葉なんて一言もありません。悲しくなりました。  その日の夜中、ベッドで何日か前の志津の言葉を思い出しました。『私にそんなことを言われても困る。共倒れになるからやめてほしい』。ああ、この人は“病人の僕”を捨てたんだな。僕は同棲期間を含めて7年間も“病人の妻”をケアし続けたのに、この人はケアなんて一切してくれないんだ。そこで悟ったんです。最初から圧倒的に不公平な結婚だったんだと」  仲本さんは少し間をおいて、言い直した。 「僕は志津が心の病気だから離婚したんじゃありません。僕が心の病気になっても救ってくれなかったから、離婚したんです
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まさかの脅迫
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