Vol.15-3 「あなたの大切なものは全部奪う」離婚を告げたら妻が脅迫…夫がとった作戦とは
「夫がおかしくなったから離婚する」
苦しむことはなにかをなしとげること
あの頃の自分が本当の自分だった、ということなのか。
「あの時、懸命に生きていた自分はもう戻ってこない。あの時の自分が本当の自分で今が抜け殻なのか、今が本来の自分なのかは、よくわかりません。今はぬるま湯の幸せなのかもしれない。なんだったら、人は苦しみ尽くすことではじめて何かを成し遂げられる。アウシュビッツ収容所を生き抜いた医者が書いた『夜と霧』って本に、そんな感じの一節があったと記憶しています」
取材が終わり、翌日、仲本さんからメッセージが届いた。
「志津と結婚パーティーに行った時の写真が出てきたので送ります。15年くらい前ですが、当時の僕、今と違って痩せてたし、精悍でしたね。結構いい顔してるでしょ」
写真には、仲本さんと出会った当初に比べてやや肉付きと顔色のいい志津さんと、対照的に青白く幽霊のように痩せ細った仲本さんが写っていた。意外だが、志津さんは温かみのある穏やかな表情を浮かべている。それに対し、仲本さんは睨みつけるような鋭い眼光でこちらを見つめている。
一瞬、どちらが心を病んでいるのか、わからなくなった。
<文/稲田豊史 イラスト/大橋裕之 取材協力/バツイチ会>稲田豊史
編集者/ライター。1974年生まれ。映画配給会社、出版社を経て2013年よりフリーランス。著書に『映画を早送りで観る人たち』(光文社新書)、『オトメゴコロスタディーズ』(サイゾー)『ぼくたちの離婚』(角川新書)、コミック『ぼくたちの離婚1~2』(漫画:雨群、集英社)(漫画:雨群、集英社)、『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)がある。【WEB】inadatoyoshi.com 【Twitter】@Yutaka_Kasuga


