まんきつさん「この本が知らない誰かの道しるべになったらいいな」

まんきつさんと吉本ばななさんとの特別対談が『アル中ワンダーランド文庫版には収録されている
作者のまんきつさんにメッセージを寄せてもらいました。
「アルコール依存症と診断された時、『この程度で?』と信じられない気持ちになったと同時に、こんなに簡単に身を崩すものがコンビニやスーパーで簡単に手に入れられるということに危機感も覚えました。
なんとかその場をやりすごす手段としてお酒を使う人は世の中にたくさんいると思います。気がついたら飲みたくないはずなのに飲まずにはいられない状態になっている人も少なくないはずです。アルコール依存症のイメージもよくないですし、世間体から受診せずにいる人も多いと思うので、もっと見識が広がり『風邪かな?』と病院を受診するくらいカジュアルに検査しやすい世の中になったらと思います。
人は誰でも何かしらに依存して生きていると思います。でもその依存先が、例えばペットだったり友だったり美味しい食べ物だったり体も心も穏やかにするものであればとても幸せなのではないでしょうか。現在も回復にむけて治療の最中ですが、お酒ではない別の依存先を見つけた今は当時よりもずっと穏やかに暮らしています。あくまで私の場合ですが。この本が知らない誰かの道しるべになったらいいな」
『アル中ワンダーランド』の単行本・文庫版ともに担当し、『湯遊ワンダーランド』では登場人物の一人でもある編集者・高石さんもアルコール専門外来で断酒した一人。当時を振り返って語ります。
「単行本で大きな反響があったのが、この『私はお酒を飲まないと人と明るくしゃべれないの』と主人公が叫ぶひとコマです。なので今回の文庫本ではそのコマをカバーに持ってきました。

まんきつ『アル中ワンダーランド』文庫より
僕もしらふの自分をとてもつまらない人間だと思っていて、お酒の力を借りることで人並みに明るく話せるものだと信じて飲んでいました。大勢の飲み会に参加する前に飲んだり、よくないのですが取材前にもお酒を頼りました。人と会うときにしらふではいられなかったんです。
でもあるとき、酔った自分を冷静に振り返ってみると、自分が明るくて面白い人間になっていたかというとそうではなく、むしろただただ迷惑な人間でした。飲むたびにブラックアウトを起こして、家までどうやって帰ったかわからないし、記憶がないなか会社の上司に電話して暴言を吐いていたことを翌日に知る。それらのことでまた落ち込み、沈んだ気分をまぎらわせようとお酒を飲むという悪循環に陥りました。
結局、自分のことが怖くなり、アルコール専門外来で薬を処方してもらい断酒することにしました。もろもろを反省するとともに、しらふでつまらない自分を受け入れた今は飲まずに済んでいます。
アルコールにしろ薬物にしろセックスにしろ、“孤独”という状態が依存症の引き金になるのだと思います。困ったときに頼る人や、依存していく過程で止めてくれる人もいない孤独な人。彼らが不安や悩みに直面して耐えられなくなったとき、その何かをまぎらわせようと、つまりコーピング(対処行動)としてどっぷりハマっていく。
コロナ禍で不安やストレスを募らせている人も多いと思います。そんなときに、この『アル中ワンダーランド』を読んで、こうはならないようにしようと思いとどまってくれたら幸いです」
<文/藍川じゅん>
⇒この記者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】藍川じゅん
80年生。フリーライター。ハンドルネームは
永田王。著作に『女の性欲解消日記』(eロマンス新書)など。