「結婚してからのほうが、ケンカが激しくなりました。原因はやはりカネです。ナオミはとにかくカネをくれ、カネが足りないと。妊娠してからの彼女は専業主婦でしたが、金遣いがとにかく荒い。
毎月お小遣いで4、5万円くらいは渡していたんですが、結婚前と同じく、何に使っているかわからないんです。昼間、僕がいない時に食事を作るのが面倒で、頻繁に出前を取っていたみたいですが、それで僕が怒り、ナオミも言い返す。そんな衝突ばかりでした」
正太さんの給料手取りは20万円。結婚して二人暮らし用のマンションに引っ越したので、とても足りない。そこで正太さんは週末のダブルワークをさらに増やした。引っ越しや各種現場作業などの肉体労働だ。
ほどなくしてナオミさんが芽衣ちゃんを出産する。しかし……。
「やっぱりお金が足りないからと、ナオミはガールズバーで働きはじめました。僕が帰宅したら芽衣の世話を僕にバトンタッチして、働きに出るわけです。
月に40万円とか稼ぐんですよ。なのに、それでも僕におカネを借りようとする」

そのうち、ナオミさんが家であまり口をきかなくなった。ガールズバーと家を往復するだけのナオミさんに業を煮やした正太さんは、意を決して問いただす。
「
『結婚生活を続けていく気あるの?』と聞いたら、『ない。芽衣を連れて出ていく』。僕は頭が真っ白になり、芽衣を取られてしまうと思って、その場で号泣してしまいました」
しかし翌日、冷静になった正太さんは一芝居打つことにする。
「ナオミの真意を聞き出そうと思い、大げさに土下座をしました。『今までお金を返せなんて言って悪かった』と。悪いなんて全然思っていませんでしたけど(笑)」

その姿が哀れみを誘ったのか、ナオミさんはすべてを話しはじめた。
「ガールズバーで働き始めてから、ものの1週間で彼氏ができたそうです。相手は店の客。稼いだカネは彼氏に服を買ってあげたり、飲みに行って豪遊したりしてたみたいですね」
正太さんは改めて、結婚生活を続ける気があるのかを問うた。
「『
芽衣もねー、どうしよっかなー、正直育てられないんだよねー』と、軽く言い放たれました」
今までにこやかに話していた正太さんの目から、笑みが消えた。
「
そのとき僕、こいつをぶっ殺そうと思いました。もはや浮気したことなんて、どうでもいい。あまりにも軽すぎます。子供はアクセサリーじゃない、一体何を考えてるんだと、怒りが収まりませんでした。手は出しませんでしたが、かなり強い言葉で責め立てて……。誰かに殺意を抱いたのは、後にも先にもこの時だけです。でも、そんなことしたら芽衣と一生会えなくなると思って、こらえました」