Gourmet

洋食に味噌汁。ご飯に合う料理を出す、という老舗町洋食店の哲学

店主が「極めて優秀かつ現代的なマーケッターでもある」ワケ

町洋食

カウンターに置かれる漬物はキュウリと青唐辛子の醬油漬け。義彦さんが心底気に入って取り寄せているのも納得の、通好みなうまさだ

 義彦さんが一番大きく変えてきたものは「メニュー数」である。 「とにかくメニューを削ることばかり考えてきました」と義彦さんは語る。これにはもちろん忸怩たる事情もある。高度経済成長期以降、いまに至るまで、洋食店には逆風が吹き続けている。ランチタイムにいかに多くのお客さんを効率よく捌くかが勝負なのだ。メニューを絞り込まねば、それは成り立たない。  世の中の多くの洋食店が直面してきた課題だが、飲食の同業者としての私から見るとGOTOOにおける絞り込み方は極めて的確なものであったと感じる。店の創業期、つまり「洋食店」と「フランス料理店」が不可分であった時代を引き継ぐようなクラシックなメニューは一掃され、いまは日本人が「洋食」と聞いて真っ先にイメージするようなメニューが並ぶ。  それは言い換えれば“ごはんに合う料理”。「洋食店はごはんをおいしく食べさせることが大事」と言い切るその理念が具象化されている。私から見た義彦さんは、腕利きの料理人というだけではなく、極めて優秀かつ現代的なマーケッターでもあるのだ。

看板料理・季節限定のカキフライ

町洋食

カキフライは、昔はソースをかける人が多かったが、「そのまま」「レモン」「醬油」など、一粒ずつ味を変え、丹念に味わう客が増えたという

 この店の看板料理の一つが季節限定のカキフライ。岩手県広田湾産のカキを使用し、その産地は店頭でも店内でも強くアピールされている。産地アピールはさまざまな飲食店で当たり前のようにあるが、洋食店では極めて珍しい。しかも単に産地を記しただけの世間によくある陳腐なものではなく、実が伴っている。 「日本一のカキ」と一見仰々しいコピーが掲げられているそれは、実際に食べると納得しかない。単に柔らかくジューシーなだけではなく、むっちりと詰まりに詰まった食感とうま味、そして雑味のなさ。義彦さんは、震災後、一度は壊滅した産地との直接の交流の中でこの食材と出合い、提供し続けている。  そしてマーケッターとしての義彦さんは適切なPRで看板料理に仕立て上げた。  このようにしてGOTOOでは、メニューも料理も売り方も、さらには内外装も接客も含めてあらゆる要素が時代に合わせて「最適化」されている。だからこそ、この町で支持されている。
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ついつい足が向いてしまう圧倒的なクオリティ
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洋食GOTOO
東京都豊島区南大塚3-54-1
11~14時、17時30分~20時(ラストオーダー)※水曜はランチのみ、日曜祝日定休
現在の店舗は’01年に改装。イタリアンレストランを思わせるスタイルに
(コロナの影響により営業時間はお店にご確認ください)

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