そして、いよいよ結婚式当日。大使館の面々も列席するなど、まるで政治家御子息の結婚式かと思われるほど盛大なものでした。
しかし事件は披露宴で起こります。いよいよクライマックスの親への挨拶が始まり、紀子さんは少し緊張しながらも真面目な面持ちで口を開きます。

「パパへ。今まで大切に育ててくれて本当にありがとうございます。ノリ(紀子の一人称)は昔も今もずっとパパに感謝しています。ノリは今日からパパから離れて重幸さんと一緒に生きていきますが、たとえ離れてもノリはずっとパパの娘です。
昨日の夜、パパと一緒に湯船に浸かったとき、ノリは心からそう思いました」
披露宴会場は一瞬静かになり、強いスポットライトに照らされた二人の姿だけが静かに目立っていました。今まで満遍の笑みだった新郎の両親の顔からは笑顔が消えていました。

「
ノリ、小学校の時の思い出がオーバーラップしたんだね。パパはずっとノリの味方だからね。これからは重幸くんと一緒に頑張るんだよ」
娘の口から出た言葉をとっさにフォローする父親でしたが、なんとなく後味悪いまま披露宴は幕を閉じました。
「
あの時は僕も一瞬ヤバイと思いましたよ! でもそれも紀子の一部なんだと、今では特に気にはしていません。ファザコンだから別れるなんてありえないでしょ? まあビックリしましたけど、親を大事にしてるってことじゃないですか。仲良くやってます」
あれからしばらくして重幸さんは前向きな気持ちを語ってくれました。
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結婚式のトンデモ話―
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<文/浅川玲奈 イラスト/カツオ>
浅川玲奈
平安京で生まれ江戸で育ったアラサー文学少女、と自分で言ってしまう婚活マニア。最近の日課は近所の雑貨店で買ってきたサボテンの観察。シアワセになりたいがクチぐせ。