自分にとって心地のよい声を聞くとドーパミンが産生される
――言葉遣いや話す内容よりも、オーセンティック・ヴォイスを見つけることのほうが大切なのでしょうか?
山崎「はい。話し方や話の内容はいくら素晴らしくても、ほとんどは一晩寝たら忘れてしまいます。でも、声は人の脳の基幹領域に刻まれる本能的なものです。話し方や内容など『意識的』に判断するのは大脳の新皮質ですが、声という音は新皮質に届く前に間脳や中脳、大脳辺縁系などを刺激して神経伝達物質を生じさせます。自分にとって心地よい声を聞くと、セロトニン、エンドルフィンやドーパミンが産生されます。ところが、“嫌な声”が脳に入ってくるとストレスホルモンであるコルチゾールなどが分泌されてしまう。自分の声は一生を通して自分の内外から聞き続けるわけですから、自分のオーセンティック・ヴォイスを見つけることは非常に大切なんです」
一般的なヴォイストレーニングは声を表面的に変えるだけ
――普通のヴォイストレーニングからも、オーセンティック・ヴォイスを見つけることができますか?
山崎「一般的なトレーニングは声を表面的に変えようとすることが多いですね。『いい声になりたい』というような漠然とした気持ちでトレーニングを受けると、ヴォイストレーナーさんの好みの声や、単に出やすいだけの声、あるいは目的に特化した作り声になってしまうことがあります。声優やアナウンサーの声は必ずしもオーセンティック・ヴォイスではないんです。ちょっと難しいと感じるかもしれませんが、自分の声に真摯に向き合うことによってしか、自分のオーセンティック・ヴォイスを見つけることはできません」
<取材・文/此花わか>
此花わか
ジェンダー・社会・文化を取材し、英語と日本語で発信するジャーナリスト。ヒュー・ジャックマンや山崎直子氏など、ハリウッドスターから宇宙飛行士まで様々な方面で活躍する人々のインタビューを手掛ける。X(旧twitter):
@sakuya_kono