無事に公立の高校に進んだ安井さんは、空手を続けて勉強にも励んでいましたが、
「困ったのは、
私の体格や空手をしていることを目当てに女子が頼ってくることでした。ほかの高校のちょっと怖い男子生徒が校門にいたら一緒に帰ってほしいとか……それだけならまだしも、別の高校の誰それをやっつけてほしいとか、無茶なお願いをしてくるんですね。
空手は暴力のために習っているのではない、とそのたびに説明して逃げていましたが、
あるとき仲良しの子が不良が多くて有名な男子校の生徒に絡まれてしまって……」

「待ち伏せされるから、帰るのが怖い」と怯える友人のために、このときばかりは同行したという安井さん。何かされたら撃退しようというのではなく、「体格のいい私と一緒なら近づいてこないだろう」と思っていたそうです。
裏道で本当に待ち伏せしていたその男子生徒たちに囲まれたときが、運命の分かれ道でした。
「他校の不良を倒した女ヤンキー」として名前が広まる
「肩をつかまれたので、とっさに身をよじってかわしたら相手が転んでしまって。緊張していたせいか、空手で相手と向き合うときのように構えてしまい、それを見た男子たちはヤバいと言いながら逃げていきました」
何事もなく終わったものの、次の日から安井さんの名前は「他校の不良を空手で倒した女子」として広がります。

実際は空手なんか使っていないけれど、一緒だった友人が大げさに安井さんを褒め称えたことも、周囲にとっては「手を出したらまずい女子」と思われる原因でした。
「お母さんにこのことを話したら、こっぴどく叱られました。
友達についていくのはいい、でも不良に絡まれたらまず逃げるのが正解と言われて、自分なら何とかできると思っていたことに気がついて。本当に反省したし、それからは誰に何を言われても首を突っ込むのはやめました」
噂は独り歩きして、体格の良さが目立つ安井さんは「ヤンキー」と陰で言われるようになります。
不良と思われることは何もしていないのに、たった数分のことが安井さんの印象を変えてしまいました。