Entertainment

『silent』は鈴鹿央士の“失恋”に目が離せない!優しさと頼りなさの演技がイイ

湊斗の内面が浮き彫りにされる外見

 鈴鹿君のプロフィールには身長178cmとあり、長身で圧倒的な小顔を誇る。ただし顔があまりに小さいので、アンバランスといえば、アンバランスなのだけれど、この外見のアンバランスさこそ、彼の演技の要だといえる。  たとえば、彼の小顔を強調するにカメラが寄るアップの画面では、紬が湊斗の性格を指摘するように優しさをストレートに体現した温かい印象がある。一方で、彼の長身を強調するロング(引き)の画面、特に紬と並んで外を歩く場面などでは、どこか頼りない印象を与える。  この優しさと頼りない不安定な感じが、アップとロングでそれぞれ強調される。鈴鹿君の外見の特徴を通して、湊斗の内面が浮き彫りにされる。湊斗は、高校卒業以来、再会した佐倉に紬が思いを募らせていく様子に、自分の彼女が取られるのではないかという不安を募らせていく。優しさ、不安、葛藤が混ぜこぜになった湊斗の内面性を鈴鹿君は、全身で体現しながら、演技としてうまく表現していく。

もうひとつの「魔法のコトバ」

 第3話冒頭、佐倉が全校生徒の前でしめやかに読み上げるのが、作文「言葉」。紬は、佐倉の声と言葉にうっとり聴き入る。湊斗は、うっとり顔の紬のことを離れた位置からじっと見つめる。鈴鹿君のさりげない視線が絶妙だ。好きな人が目の前で誰かに恋する瞬間をまざまざと見せられた湊斗は、なにを思ったか?  紬が好きだという映画『ハチミツとクローバー』(2006年)の意味がここでわかる。同作の主題歌であるスピッツのシングル「魔法のコトバ」は、紬と佐倉の両思いを結びつけた曲。この曲は、恋するふたりにとっては得恋の歌でも、湊斗には切ない失恋ソングだ。ほんとうに切ない。その切なさを湊斗は、モノローグでこう語る。 「すごく切なくて、ちょっとだけ嬉しかった」  ああ、なんという切なさ。佐倉が読んだ「言葉」以上に、このモノローグの言葉自体、友情と恋愛の間で葛藤する湊斗の感情をにじませる「魔法のコトバ」だ。スピッツの歌詞の世界とは別に、いわば湊斗が形成する青春の心象風景が、まるでもうひとつ、別のラブソングを奏でているようなそんな場面。第3話冒頭は、湊斗=鈴鹿君のハイライトだった。
次のページ 
湊斗の「失恋のマスターピース」
1
2
3
Cxense Recommend widget
あなたにおすすめ