『silent』は鈴鹿央士の“失恋”に目が離せない!優しさと頼りなさの演技がイイ
湊斗の「失恋のマスターピース」
湊斗は、佐倉との再会を素直には喜べない。紬を取られるかもしれない不安と高校卒業以来耳が聞こえなくなった親友に対する複雑な感情が、彼の心に渦巻く。それが噴出して、紬に涙ながら自分の気持ちをストレートに訴える鈴鹿君の演技もまた見ものだ。結局紬と別れることを選んだ湊斗は、部屋で荷物を整理する紬に言う。 「自分のこと好きな人、好きになると片思いできないよね。もったいないよね。楽しいのに。片思い」 モノローグではない通常の会話ですら、こんな詩的なことを言う湊斗は、失恋の詩人である。失恋の詩人・湊斗の見せ場は続く。ヘアピンを忘れた紬と電話で別れの儀式をすませる第5話の場面は必見だ。 ハンバーグをこねる手をとめた紬は、電話口で湊斗のことがどれだけ好きだったか話す。川口の演技が長回しで延々捉えられる。気づけば紬が涙を流している。湊斗も電話口で涙をこらえきれずに声がふるえる。こうした繊細な演出は、さすがこの回の演出を担当する風間太樹監督の手腕だ。 電話を終えたあと、湊斗はベッドに横になる。膝をおさえて縮こまったように眠る。カメラは彼の横顔を捉える。画面はフェード・アウトして次の場面になるかと思いきや、そのまま朝になる。湊斗が目を開ける。彼が見つめる先には紬がいる。現実か、夢か……。もちろん紬との思い出を懐かしむ回想なのだけれど、あの朝のすり替わりが、こうして再現されることで、湊斗の「失恋のマスターピース」は完成するのだった。 <文/加賀谷健>


