その日、アパートまで自分のクルマで来ていた美也子さんは、角を曲がったときに最初の「異常」を感じます。

「
彼氏の部屋の前に、女性らしい人影が立っているのが見えたんです。ベージュのコートで、宅配の人でもなさそうだし目立ちました」
「ねえ、あれ」と言いかけた美也子さんに対して、彼氏は慌てたように「何だろうね」と声をかぶせてきて、急にスピードを落としたそう。
そして、彼氏のクルマがアパートの駐車場に入っていったとき、その人影は廊下からさっと走り去ります。
「どう考えても彼氏のクルマを認識して逃げたって感じで、そのとき『元カノかも』とピントきました」

心臓が急にドキドキと大きな音を立てたと話す美也子さんでしたが、運転席で明らかにうろたえる彼氏の様子もまた、自分の勘の正しさを伝えるようでした。
きっぱり別れたと言っていた元カノが何の用なのか、どうして彼氏は何も言ってくれないのか、不安と混乱で冷や汗が流れたそうです。
廊下にいた女性について一言も触れないまま、自分の駐車スペースに停めてある美也子さんのクルマの前で停車した彼氏は、「気をつけてね」とぎこちない笑顔を向けます。
「……」
これが2つ目の異常で、事態について何の説明もしないまま自分を帰そうとする彼氏の姿に、美也子さんははっきりと落胆を覚えました。