第6話へ向けて、ドラマ全体のちょうど折返しになるクライマックスの熱演だったが、実はその前にも、岩田はとてつもない名演を見せていた。
それは、慣れない料理をかいがいしくする楓に新名が対峙する場面でのひと幕。あまりにつれない態度の新名に、いったいどうしてしまったのかと楓が頭を抱える。すると新名が、「じゃあ言うけど」とややきつい口調で言い出そうとした瞬間だった。楓のスマホに着信が……。
おそらく仕事の電話に違いない。でもさすがにこのタイミングではまずい。着信音がなった拍子に新名は、楓からスマホのあるソファのほうに視線を動かす。鳴りやむと、静かに視線を彼女のほうに戻す。この岩田の演技を見て、筆者はこれまでの岩ちゃん史上最高の名演に立ち会った気分だった。
世界的巨匠監督が絶賛するに違いないシンプルな演技とは

6話より
ある地点からある地点へ視線を動かし、また同じところへ戻す。この場面での演技は、驚くほどシンプルな動きだ。シンプルであるが故に、それは想像以上に難しく、高度な演技のセンスが必要になる。
ここで、『サイコ』(1960年)などで有名な世界的巨匠アルフレッド・ヒッチコック監督の話題を。ヒッチコック監督は、単なる視線の動きをシンプルにできない俳優をとにかく嫌った。俳優からしたら、できるだけ感情豊かにキャラクターを演じたいから、シンプルな動きにも何かしらのアクセントをつけたいもの。
そのアクセントがむしろ邪魔になる。AからBへ視線を動かすだけでいいところを内面の変化に合わせた無駄な動き(例えば、目を泳がせたり)によって台無しにしてしまうのだ。だからきっと、新名役の岩田のシンプルな演技を見たら、ヒッチコック監督も絶賛したのではないかと思うのだが。