高校生の娘のバイト代も使い込むダメ父。「こいつはヤバい」と親を見つめた女性の壮絶人生を招いたものとは
「戦後になり時代の変化で家業が傾いたことに加えて、いちばんの打撃は祖父のアルコール依存症です。祖父はシベリア拘留からの帰還者で、祖母曰く『戦争前はあんな人じゃなかった』とか。
だから本当はアルコール依存症になった原因であろう心の傷などを考えてあげなくてはいけなかったのかもしれませんが、あまりの酒乱っぷりに、当時はそんな配慮をする余裕はまったくありませんでした」
酔って夜中に馬を放ち、近隣の田畑をめちゃくちゃにする。酔ったまま仕事に出かけ(飲酒運転の取り締まりがゆるい時代だった)、田んぼのあぜ道で脱輪して稲をつぶす。そうしたやらかしに加え、家族がいちばん困ったのが冒頭のセールスだ。
「いつも酔っていて、気が大きくなっている」「金に糸目をつけず、大物を買ってくれる太客」――業者のあいだでそんな情報が出回っていたのかもしれない。珠江さんの家の客間には、さまざまな訪問販売のセールスマンがいつも居座っていた。
ネットもなく個人情報という概念も怪しかった昭和の時代。訪問販売は、いまよりずっと一般的な商法だっただろう(もちろん、いまでも存在する)。化粧品に教材、百科事典、布団やハンコ、調理器具。一定の年齢以上は、何かしら訪問販売にまつわる思い出があるかもしれない。
しかし珠江さんの家は「言われるがまま全部買う」というのだから、普通ではない。
「愛用の足踏みミシン使ってるんだから、いらねって言ってっべず!!!」
祖母がそう主張するにもかかわらず、祖父が買うので「ご注文の品お届けでーす」とサクサクと最新ミシンが運び込まれる。去年買い替えたばかりの冷蔵庫も洗濯機もエアコンもオーブンも扇風機も掃除機も、次々と最新型に差し替えられる。家電はリースか? という勢いの頻度ある。
その光景にご近所は「あそごのずんつぁ(じいさま)まだ買ったべ。さすがだずねぇ~」とはやし立て、祖父が満足げに笑う。
「家計に余裕があるならそれもいいんでしょうけど、家業は傾き家計は火の車。借金取りまで来てるんですよ!? でもじいちゃん、すごい見栄っ張りだったんですよね。いつまでも、いいところのお坊ちゃん、地主様、さすが!って思われたかったんじゃないでしょうか」
酒で気が大きくなって、買う

見栄が人を動かしてしまう

自分が身内が友人が沼ったご体験談を募集中です。当連載における沼とは、科学的根拠のない健康法やマルチ商法、過激なフェムケアや自然派思想など、主に健康問題に関わるものにハマることを示します。「女子SPA!」のお問い合わせフォームより、ぜひお気軽にご連絡ください(お返事に時間を頂戴する場合もあります)。
この連載の前回記事