樹里とリカの関係の悪さをクベ(菅田将暉)は気づかない(男性たちはなぜか女性たちの険悪さに気づかないものなのだ。いや、男性たちは気づいていても自分とは関係ないので放置する)。
クベは人手不足を理由に、演劇素人の樹里を「演出助手の助手の助手」にして、新たに上演する『冬物語』の台本を短縮する作業の手伝いを頼む(第7話)。

『もしがく』7話場面写真©フジテレビ
クベはリカに夢中、樹里はクベにすこし惹かれ始めている。リカはクベに少し粉をかけているが、本気ではなさそう。微妙な三角関係。樹里がクベに呼ばれて意見を求められていることがリカは気に食わない。あくまで冷静な態度で、執拗に樹里の意見を否定してかかる。
いくら時代設定が80年代とはいえ、こんなにぎすぎすした女性同士の会話を描くことは、なかなかチャレンジングである。いやいや、こういうのがゾクゾクして面白いと思う人もなかにはいるだろうけれど、いまや打たれ弱い人たちが増えているので、もういたたまれないと思う視聴者もいるのではないだろうか。

『もしがく』6話場面写真©フジテレビ
いまはやっちゃいけないので表面上は行われていないと思うが、女子同士のマウント合戦のこわさは現実にもある。それを極端に再現してヒットしたドラマに、沢尻エリカ主演で、ファッション雑誌の世界を描いた『ファースト・クラス』(フジテレビ系、14年)がある。女性たちが全員、裏表ある凄まじいマウント合戦だった。
また、三谷幸喜の『王様のレストラン』(フジテレビ系、95年)では、山口智子と鈴木京香が険悪な役を演じていた。山口演じる、厨房で颯爽と働く料理人は、鈴木演じる、男性によりかかって生きているように見えるバーテンダーを敬遠していて、ふたりは静かに牽制し合っていた。
女性がマウントをとってその場を掌握しようとするのは、あらかじめ用意された女性の椅子が極めて少ないからかもしれない。
『もしがく』ではリカはストリッパー仲間の間ではそんなに対抗心を剥きださないにもかかわらず、樹里にかぎってむき出すのは、教養系キャラはひとりでいいと思っているのと、樹里が明らかに似非だから許せないからではないか。似非でもポテンシャルがあってぐいぐい伸びてこられたら立場がない。
しかも、樹里は若くてかわいい。ともすればヒロインの座を奪われかねない。とことん潰しておくというのが手っ取り早いのだろうと思う。そもそも清純なお嬢様が安易な興味でド底辺の世界に来るのもいやなのだろう。だが、リカのバックボーンはまだはっきり描かれていないので、あくまで推測にとどめておく。