このふたりは、2017年のシス・カンパニーの『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』(略して「ロゼギル」)でW主演している。これは、『ハムレット』の端役で、ハムレットの友人・ローゼンクランツ(生田斗真)とギルデンスターン(菅田将暉)を中心に、トム・ストッパードが書いたスピンオフみたいなものである。『ハムレット』では描かれていない端役の物語を、生田と菅田は粛々と演じていた。余談だが、そのときのハムレットはちょっとしか出ないが林遣都だった。若手三人の個性が光る公演だった。

『もしがく』第8話場面写真©フジテレビ
大きな物語のなかで作者の都合に翻弄される端役の人生の悲哀を演じていた菅田と生田が、『もしがく』では物語の中心で、派手なやりとりをしている。もっとも派手だからいいというわけではなくロゼギルみたいな繊細な会話劇も大事なのだ。それができるふたりだからこそ、『もしがく』の緊張感マックスのアクション場面も見事に成立させたのだ。
「芝居に大事なのは自分を信じる心だ」
名優・是尾礼三郎(浅野和之)の教えがクベを支えていた。

名優・是尾は、存在しない猫が見えてくる演技を指導した。『もしがく』第8話場面写真©フジテレビ
ここで、第1話のレビューに戻ろう。筆者は第1話の時点で、『もしがく』のタイトルは映画『ペーパー・ムーン』(1973年)の主題歌「It’s Only A Paper Moon」ではないだろうかと考察した。「1984」つながり!の村上春樹が『1Q84』の冒頭で歌詞を引用している、あれである。
<ここは見世物の世界 何から何までつくりもの
でも私を信じてくれたなら すべてが本物になる
It’s a Barnum and Bailey world,
Just as phony as it can be,
But it wouldn’t be make-believe
If you believed in me.>
「ここは見世物の世界 何から何までつくりもの
でも私を信じてくれたなら すべてが本物になる」
まさに「芝居に大事なのは自分を信じる心だ」と繋がっているではないか。
いないはずの透明な猫も、おもちゃの拳銃も、全部つくりものでまがいものだが、見世物の世界では、俳優たちが懸命に演じることで、本物に見えてくる、そう信じて演劇人は日夜芝居をしているのだ。クベとトロの一騎打ちを固唾をのんで見守る俳優たちのリアクションもまた、本物に感じさせる見事な演技であった。