その後ろ姿を見送ったあと、管理人は菜穂さんに『驚きましたよね』と申し訳なさそうに言ってきました。
「私は『ちょっと……このマンション大丈夫かなって思ってしまいました』と正直に言うと、管理人さんはくすっと笑って花壇を指差したんです」
そこには色とりどりの花が、丁寧に手入れされた様子で並んでおり、まだ新しい土の匂いが残るその花壇は、どこか人の手の温もりが感じられました。

※画像はイメージです
「管理人さんは『さっきの男性は、このマンションの“花壇係”のような存在でね。住人の子ども達と植えた花を、とても大切に育てていて、水やりも草取りも、全部彼が1人で担当しているんです』と教えてくれました」
怒鳴り声の印象とは裏腹な一面に、菜穂さんは思わずハッとしてしまったそう。
「さらに『あの男性はせっかく可愛がっている花に、トラックの排気ガスが思いきりかかっていたのが許せなかっただけで……ちょっと言い方が不器用だけど悪い人ではないんですよ』と聞いて、驚いてしまって」
あの強い口調の奥にあったのは怒りではなく、“守りたいもの”があったからこそ。さっきまで“怖い住人”に見えていた男性の印象がガラッと変わったそう。
「そして管理人さんが『このマンション、見た目より優しい人が多いんですよ。だから心配しなくても大丈夫ですからね』と穏やかに言ってくれて、私を安心させてくれたんですよね」
春の風が花々を揺らし色とりどりの花びらが小さく揺れる。新生活へのワクワクを、もう一度感じられた菜穂さんなのでした。
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<文・イラスト/鈴木詩子>
鈴木詩子
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:
@skippop