湯山：みんなもっと本能を呼び覚まして、人間性を回復したほうがいいよ。そのためには自然に回帰するのもひとつの手段。そこに気付いている人は、農業やエコロジーに向かっているね。土をいじったり、汚いものにも触れるから。 森林：代々木忠監督は、電灯も何もない山の中で何日か過ごすと、本能的な視力が呼び覚まされて、今まで見えなかった闇の中が見えるようになると言ってました。 湯山：山登りはいいね。トイレもないし、気候に左右されて自由も利かない。一歩間違えれば落ちて死ぬ。そういう理不尽に接していると、本能が呼び覚まされてリビドーが育つと思う。私も山登りしたことあるけど、さびしくなって人肌恋しくなったもん。あと、サーフィンもいいよ。波も自分の思い通りにならない理不尽のかたまりだから。そこで波を乗りこなそうとする人って、野性の雰囲気をまといはじめてセクシーになるから、結果、モテる。 森林：海にしても山にしても自然は理不尽ですもんね。その理不尽を味わうことで本能を呼び覚まし、人間性が回復すると。 湯山：若い頃に理不尽のトレーニングをしておくと、前回も言った“世界を低く見積もる”ってことができるようになる。体育会系にも良し悪しあるけど、理不尽への耐性がついて世の中が生きやすくなるという意味では、私は割と容認派なんだよね。今、体育会系くらいしか理不尽を教えてくれるところがないから。理不尽を勝ち上がってきた男や女は、かっこよくてセクシーですよ。 森林：理不尽への耐性と性欲の強さって、関係があるんですかね？ 湯山：理不尽と戦うための攻撃性には、リビドーを使うからね。そういう意味では、恋愛やセックスこそ、うまく使えば現代人にとっての“理不尽のイニシエーション”になると思うんだけど。 森林：どういうことですか？ 湯山：受験だって仕事だって、努力すればそのぶんだけ認められて対価が返ってくるけど、恋愛とセックスだけはそれが通用しない。自分がどんなに好きでも、相手から受け入れてもらえないってことが普通にあるでしょ。私だって、年を重ねて内面はこんなに充実しているのに、ババアってだけでいい男に見向きもされないことを思うと、理不尽で泣けてくる（笑）。でも、そこで傷付いて自分が悪いと思っちゃいけないんだよ。そういうこともあるよなァ、と飲み込んで大人になるの。 森林：落ち込んで自己嫌悪したり、自分に自信を失うのではなく、そういうものだと受け止めるしかないんですね。恋愛やセックスは、そんな理不尽さを学ぶトレーニングになると。 湯山：だからこそ、受け入れてもらえたときの自己肯定感も大きいんだけど、今はみんなその理不尽に耐えられないんだろうね。だから恋愛やセックスから遠ざかっているんじゃないかな。 ＜TEXT／福田フクスケ＞