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老いたペットとの約束を、もう果たせないと気づいた瞬間|ペットロス Vol.14

16歳の愛犬を亡くした心理カウンセラーが考えるペットロス Vol.14>  16年一緒に暮らしたゴールデン・レトリーバー「ケフィ」を、2017年4月に亡くした木附千晶さん(心理カウンセラー)。ケフィはメニエール病などと闘い、最後は肝臓がんで亡くなりました。前後して3匹の猫も亡くし、木附さんは深刻なペットロスに陥ります。自分の体験を、心理カウンセラーとして見つめ、ペットロスを考えます。 =====================

「今年は止めておきましょう」と医師に言われて

「ケフィを永遠に失う日が来ることを受け入れる」という、ずっと目をそらし続けてきた課題。そこから目を背けることがいよいよ難しくなってきたのは、2015年の夏でした。毎年恒例だった夏の沖縄旅行を断念したことが、その大きな要因のひとつだったと思います。
ケフィ

木附さんと16年一緒に暮らした愛犬のケフィ

 気圧の変化はメニエール病を誘発する原因でもあります。前年の秋に特発性メニエール病に倒れたばかりのケフィを飛行機に乗せるのが難しいことは、素人である私にも分かっていました。それでも獣医師の「今年は飛行機での旅行は止めておきましょう」という言葉を聞いたとき、私は少なからず衝撃を覚えました。  若い犬であれば、「今年」は止めておいても「来年」は行けるかもしれません。病気によっては、回復を待って次の機会を望むこともできるでしょう。でも、老犬であるケフィには「今度」はあり得ません。 「『今年は』じゃあ、ないよね。『もう』だよね」……私は心の中でつぶやきました。

毎年最大のイベントだった、沖縄でケフィと過ごす夏休み

 2004年夏、初めてケフィを飛行機に乗せ沖縄の離島・小浜島へ行きました。以来、石垣島、西表島、竹富島、渡嘉敷島に慶良間諸島……いくつもの沖縄の離島をケフィと訪れました。
海とケフィ

澄んだ海でいつもわくわく遊んでいたケフィ

 なかでもケフィがお気に入りだったのは宮古島で、7年間も通い詰めました。宮古島には「恐がりのくせに海が大好き」なケフィにぴったりの、入り江状になったビーチがありました。台風が迫っていても入ることができるほど波が穏やかなそのビーチで、日が差すとエメラルドグリーンに輝く海で、ケフィは前足をクイクイと動かし、尻尾で梶を取りながら得意げに泳ぎを披露したものです。  島では、私とケフィは朝起きてまずサトウキビ畑のなかを散歩し、昼の暑い時間に買い出しや洗濯を済ませ、日が傾く頃にボールを持って海へ行き「持って来い」をしました。毎日、ただただケフィと風に吹かれ、波に揺られ、サトウキビがざわめく音を聞いて天の川を見上げて過ごす夏休み。それは、私とケフィにとって年間最大のイベントでした。  島暮らしはケフィにとっても楽しかったようで、毎年、島を離れる日が来ると、ケフィはまるで「最終日」と分かっているかのように、いつも以上に長い時間、風に向かって潮の香りを味わっていました。
ケフィ

風の匂いを嗅ぐケフィ

 ほうっておくといつまでもなごりを惜しんでいるケフィに、私は毎年こう、声をかけました。 「ケフィ、来年もまた来よう。また必ず連れて来てあげるから、だから今年はもう帰ろう」

終わりに向かっていることを意識

「いつかその約束が果たせなくなる日がくる」  それは、頭では分かっていたことでした。ケフィが10歳を超え、シニア犬と呼ばれる年齢をとっくに過ぎた頃からでしょうか。夏休み最終日になると「来年もまたケフィとここで夏休みを過ごせるのか」という一抹の不安がよぎるようにもなっていました。でも、目の前にいる、ギネスブックの長寿犬に挑戦できそうなほど元気なケフィを見ていると、不吉な考えはどこかへ吹き飛んでしまいました。  ところがその年は、とうとう約束を果たせなくなってしまったのです。私は「これからもずっと続く」と信じたかったケフィとの毎日が終わりへと向かっていることを意識せざるを得ませんでした。
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ケフィにとっての先輩、愛猫「でんすけ」との別れで感じたこと
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