ミナさんとは最初から「無理のない範囲で会う」ことにしている。それは彼女が言い出したことだった。彼女は自身の両親と同居し、働きながら8歳の娘を育てているので時間的な余裕はある。だが、彼の家庭での立場を慮(おもんぱか)って「無理しないで」と言ってくれているそうだ。
「
彼女の優しさにすがりながらつきあっている感じ。将来の約束もなく、今、素の男と女でつきあっていることだけがすべてというある意味では儚(はかな)い関係なんですが、恋ってそういうものでしょと彼女は言うんです」
先は見えない。それでも今のこの恋を少しでも充実させたい。そんなふたりの思いを誰も断罪はできないと思う。
「もちろん、妻が聞いて楽しい話ではありませんし、妻を傷つけるつもりはまったくないので、あくまでも秘密にしておかなければと思っています。それでも恋が始まってからは、妻への気持ちも少し変わりました。
妻が夫婦生活を望まないなら、それでもいい。それ以外の面で家族としてつながっていければと思えるようになってきた。
私がいくらか穏やかになったからでしょうか、妻も以前よりつっけんどんではなくなってきた。先日、私が出張から帰ってきたら、『おつかれさま』と言ってくれた。今までにない言葉だったので、『いつもありがとう』と返しました」
ふと、
もしかしたら妻も恋をしているのではないかという思いが頭をよぎったが、シンジさんには言えなかった。ただ、万が一そうだとしても、夫婦が思いやりをもって接することができるなら、それはそれでいいとも言えるのかもしれない。夫婦が家族としてうまくやっていければいいのか、男女として向き合わなければいけないと考えるのか。それはそれぞれの夫婦が決めることなのだから。
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恋する「不倫男」の胸のうち Vol.3――
<文/亀山早苗>
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【亀山早苗】
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『
復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数