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能町みね子が挑む、ゲイ男性との恋愛感情抜き“結婚”の記録『結婚の奴』/久保ミツロウ氏コメントあり

世間一般の「常識」に戸惑い、憎悪し、もがく

「恋愛というやつを、そもそも楽しめない」という著者は、「恋愛や結婚に極めて大きな価値がある」「人は極力『恋愛』を楽しむべきである」とする「常識」への苛立ちと嫌悪感をむき出しにする。 「フレッシュネス」の章(ちなみに、この本の章は全て7文字のカタカナで統一されており、それらが目次に並ぶと非常に可愛らしい)から始まる過去の恋愛エピソードでは、当時の著者が世間一般の価値観に戸惑い、憎悪し、もがく様子が丁寧に、赤裸々に語られる。  幸せになって「つまんなくなった」「ダメになった」って言われたいと話し合った友人・雨宮まみさん(編集部注:ライター。自伝的エッセイ『女子をこじらせて』から“こじらせ女子”という言葉が生まれた。2016年に他界)との思い出には、荒々しく激しい怒りを叩きつける。息が詰まるほどの熱量に、著者の絶望の深さがうかがえる。
『女子をこじらせて』などの著作で知られるライター雨宮まみさん、2016年11月急逝。(画像:雨宮まみ『東京を生きる』大和書房より)

『女子をこじらせて』などの著作で知られるライター雨宮まみさん、2016年11月急逝。(画像:雨宮まみ『東京を生きる』大和書房より)

 そして、「常識」に抗い続け、「効率のための結婚」をした著者が、 「私はこの形態を、自分と夫(仮)の力で作り上げたのだ。自信を持っていい」 と断言する。この一文が、強く胸に響いた。

「恋愛をして結婚することが幸福」という「常識」を突きつけてくる他人たち

 完全な余談であり、全く次元の違う話を挟んで大変恐縮なのだが、私は彼氏でも友人でもない男性とルームシェアした後に入籍した。  よく知らない人(この本で言うところの「のっぺりした顔の友人」)に「そんなんで本当に胸張って幸せっていえるの?」「好きでもない男といつまでも一緒に居るなんて、哀れ」と、説教されたり蔑まれたりすることがあり、「好きな人と恋愛をして結婚することが幸福」という「常識」の根深さにおののいている。  著者と夫(仮)のような合理的かつ理想的な夫婦の存在を、心強く感じる。 「結婚」の固定概念を覆すこの本が、結婚・恋愛の「常識」に悩む人たちにとって救いやヒントになるはずだ。  能町さんの「結婚」プロジェクトが、末永く続くことを願う。(以上、藍川さんの寄稿)

久保ミツロウさん「知ってるけど知らない能町さんが沢山」

 また、能町みね子さんと長く親交がある漫画家の久保ミツロウさんにコメントを寄せてもらいました。
『久保ミツロウと能町みね子がオールナイトニッポンやってみた』宝島社

  『久保ミツロウと能町みね子がオールナイトニッポンやってみた』宝島社

昨年末ドドドッとなだれ込む様に芸能人が結婚発表していく急流の中で、能町さんの本があって本当に良かったと心の底から思った。  能町さんは省略しない。まさに書いて字の如く「赤裸々」な描写をして、もっと深いところに流れる感情をここまで読ませてくれる力量は見事すぎる。  特にインターネット黎明期の出会いは目が離せなかった。雨宮さんの時の事もやっと詳しく知れて良かった。  知ってるけど知らない能町さんが沢山。でももし友達じゃなかったら、またサイン会並んで話しかけたくなるほど吸引力がある本です>(久保ミツロウさん)  かつて、能町さんの著書を読んだ久保ミツロウさんが、この人とは仲良くなれると思って能町さんのイベントのサイン会に並んだことで二人は知り合いました。  出会って以来、ラジオ番組『久保ミツロウ・能町みね子のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)を担当し、レギュラー出演する『久保みねヒャダこじらせナイト』(フジテレビ系)に、雨宮まみさんがゲスト出演するなど、さまざまなことが起きました。  そんなこんなを知っている人はもちろん、知らない人からも反響の大きい一冊。読んだ人から、その人なりの独自の「結婚」というプロジェクトが始まり、岩のような「常識」にヒビが入ることを夢想してしまいます。 <文/藍川じゅん> ⇒この記者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
藍川じゅん
80年生。フリーライター。ハンドルネームは永田王。著作に『女の性欲解消日記』(eロマンス新書)など。
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