すでにその会社を退職して数年経つエミさんは、当時を思い返しながら続けます。
「思いつきのルールでも、必要で意味のあるものなら良いんですが、そうじゃないんです。社員だけじゃなく、会社にとっても良くない、無駄なルールばかりでしたね。余計に効率が悪くなるし、みんなのやる気が削がれていくだけ」
終電間際まで働いたとしても、タイムカードは毎日総務部の手によって「17:00」の印字がなされていました。17時の定時など、あってないようなもの。営業部はみな、4時間以上の残業が日常となっていましたが、残業代は出ませんでした。
「次の会社で、残業代がつくと知ったときは驚きました。つかないのが普通だと思っていたので(笑)」

当時は「どこの会社もこんなもの」だと思い込んでいた
苦しい就職活動の果てに、なんとか運良く入社できた――。そう思いながら働いていたという当時のエミさんは、会社でどんな理不尽なことがあっても、「どこの会社もこんなもの」と思っていたのだそう。
また、社長という言わば「共通の敵」がいることで、社員同士の結束は固かったのだとか。
「上司や先輩たちは本当にいい人たちばかりでした。5年ほど働いてから転職が決まったときも、会社は最悪だけど会社の人たちと会えなくなるのは寂しいな……と思ったくらいです。当然、転職に迷いはありませんでしたが」
当時の同僚の何人かは、今でもまだその会社で働いているということをSNSで知ったエミさん。ときどき投稿される会社の愚痴などを目にし、状況は何も変わっていないのだと感じるたびに、辞めて正解だったという思いを強めるのだそうです。
―シリーズ「
ブラックな職場がしんどい」―
<文/船田 ゆかり イラスト/とあるアラ子>