「もともと私の母親は、『結婚したら、嫁は夫の家のルールに従うもの』『結婚とは、家同士が縁を結ぶこと』と考えるタイプ」だったそう。だからこそ、牧野さんは妻としてのあり方に違和感を随所で感じながらも、「
これが普通なのかな……」と迷いながらも自分を納得させていたといいます。

「転機になったのは、出産と育児のために仕事を休んでいた私が、復職を考え始めた時のことです。当時は夫の予定を優先した上で仕事復帰を考えていたものの、復帰したくてもできない状況が続きました。例えば、復職のためにモデルの仕事のオーディションを入れたいけれど、それが仕事につながるのか分からない“可能性”の段階では、夫の都合をつけてもらえない。
さらに保育園や幼稚園も、家庭内のことは全部私がやらなくてはいけないと思い込み、
気づいた時には夫に家事や育児を渡すことができなくなっていました。
こうした思い込みの原因は、
自分の中で“女”や“妻”という立場にバイアス(偏り、先入観)がかかっていたからです。しかし、当時はそれに気づけず、夫に対して『あなたは全然やってない』みたいな感情になり、ギスギスした状態が続き、話し合いをすることになりました」
話し合いの場を設けた際、夫さんからは「
ちゃんと『して欲しいこと』を言ってくれないと、想像してやるっていうのはできないよ」と言われたといいます。牧野さんはその言葉に「想像が難しいなら、私もどうしていったら良いか分からない」と途方に暮れました。
すると夫さんから、1つの提案があったのです。

「夫が『それなら、家事と育児を1週間ぜんぶ僕がやってみる』と言ったんです。こうして始まった夫のチャレンジですが、本当にその間、私は何も手を出しませんでした。期間中はママ友たちの協力のもと、ママ友同士のグループLINEに夫も入れてもらい、子どもの送り迎えなどの細かなやり取りまで参加していました。
こうしたチャレンジの結果、夫からは『
今まで紗弥ちゃんが、外にいても家にいても全部のスイッチを常に“オン”にした状態だったことがよく分かった。知る機会を与えてくれて、ありがとう』と言ってもらいました。そしてもう1週間延長したいと、夫が自ら申し出てくれたんです。
結果としてこのチャレンジの後に夫から、『新しい共働きの形を作っていこうね』と言われました。それと同時に、私は私で女や妻としての役割に自ら縛られることで、夫が知る機会を奪っていたことに気づきました」

牧野紗弥さん(左)と筆者(右)
夫さんの中で「妻が抱えているタスクと責任の具体的な重さ」が目に見えたことは、夫婦にとって大きな第一歩。こうして、牧野さんと夫さんは、ふたりにとっての最適な形を探し始めるのでした。次回に続きます。
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モデル牧野紗弥が気づいた“妻の苦しさ”の正体。ジェンダー問題だったんだ!
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【牧野紗弥(まきの・さや)】
『VERY』『Domani』などのファッション誌や広告で活躍するモデル。1984年生まれ。3児の子育てと仕事の両立に励む等身大の姿が、女性たちの共感を呼ぶ。Instagram:
@makinosaya
<取材・文/おおしまりえ>
おおしまりえ
コラムニスト・恋愛ジャーナリスト・キャリアコンサルタント。「働き方と愛し方を知る者は豊かな人生を送ることができる」をモットーに、女性の働き方と幸せな恋愛を主なテーマに発信を行う。2024年からオンラインの恋愛コーチングサービスも展開中。X:
@utena0518