――お母さんとの関係だけでなく、漫画と実人生の関係性も「どっちもあっていい」と、両方受け入れたのは、ペス山さんならではと思いました。
ペス山:性別もそうなんですが、極端な二元論から脱したいなという感覚があって。
山口百恵がマイクを置いてもう歌いませんみたいなやつ。かっこいいんですけど、人生のある時点でこう生きる!って決めちゃって、それ以外の選択肢なくなって身動き取れなくなっちゃうかなって思うんですよね。
私はトランスジェンダーだと前よりも強く自認して生きてるんですけど、例えば、私が性別移行したら、いろんな呪いがかかったり逆に得したり、社会的な扱いがたぶんものすごく変わる。それがいかに異常かっていうことをすごく考えるんですよね。私は常に2つの性別の中で揺れてるから特に。そういうことが言いたくて書いた本でもあって。ただトランスではいられないというか。
――本編終了後の番外編②でのマスターベーションの描写にビックリした読者も多いのではないでしょうか。女(じぶん)の体を許せた後に、体と仲良くなれているんだなというのが具体的にわかってとてもいいエピソードでした。
ペス山:超タイムリーで、ほんとにここ最近あったから描いたものなんですよ。
チル林:締切的に一番ヤバかったけど、一番ドライブ感あった(笑)
ペス山:「具体的に女(じぶん)の体をどう許せたんですか?」と聞かれたら、「番外編の最終話読んでください」って感じなんですよ。描いてて楽しかったです。
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『女(じぶん)の体をゆるすまで』は、今まさに傷つき、戦っている人たちはもちろん、痛みを感じていない人や誰かを傷つけているのではないかと不安に思う人にも寄り添う内容となっている。
第15話のラストで砂利道を素足で歩く人たちを描き、「全員分の靴が欲しい」と作者は言った。その優しさと熱意は、性差に悩み生きづらさを感じている全ての人たちに響くだろう。
「黙らない」と決意するに至った一人の漫画家の長い戦いの記録を、是非その目で確かめていただきたい。
【第1話試し読みはコチラ】⇒
<漫画>アシスタント先の漫画家にセクハラを受けた話
【前回のインタビューを読む】⇒
「つらくても真実の方がいい」セクハラ経験を描く漫画作者に聞く“誹謗中傷と戦う理由”
<文/藍川じゅん>
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藍川じゅん
80年生。フリーライター。ハンドルネームは
永田王。著作に『女の性欲解消日記』(eロマンス新書)など。